超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 顕微鏡を覗く。青い溶液のところどころに緑色の塊が見える。倍率を上げる。緑色の塊のあちこちに、粗末な家や酒場みたいな建物が見える。倍率を上げる。家の屋根にのぼって、こちらを見つめながら、スケッチブックの上にクレヨンか何かを動かしている少女がいる。あ、手を振った。どうしよう、ウィンクでも返すか。あ、でも片目だけじゃわかんないか。少女の急な動きにあたふたしているうち、やがて少女の下にある窓から湯気がたちのぼり、それに気づいた少女は屋根から飛び降りて、もう一度こちらに手を振ってから家の中へ入っていった。屋根の上に残されたスケッチブックの中を覗こうとしたが、レンズの倍率はそれ以上上がらなかった。もっと高性能の顕微鏡を注文することにした。それまで、実験用の薬品が入ったスポイトは、誰にも見つからない場所にしまっておくことにした。