超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

つまようじ

 望遠鏡をのぞきこみ、理科の先生といっしょに、星を観ていたぼく。ふと見つける。星から何か生えてる。あれ何だ。ああ、あれ、つまようじだ。星に刺さっているんだ、つまようじが。探せば他にもそんな星がいくつかあるみたい。首をかしげるぼくに、理科の先生が言う。「あれはもうすぐ食べられてなくなってしまう星なんだよ」確かに星を食べるには、指よりも箸よりもスプーンよりも、つまようじが一番都合が良さそうだ。「よく観ておきな、今夜で見納めかもしれないから」理科の先生が言う。ぼくは尋ねる。誰が食べるのあの星を。理科の先生は言う。「ぼくの先生がそれを研究していたんだけど、それを解明する前に、先生は自分が星になってしまったんだ」理科の先生の顔が急に曇る。ふうん……。そう答えることしかできないぼくがもどかしい。どんな味がするんだろうね、星って。ぼくは少しだけ話題を変える。「食べたことのある誰かに訊かないとわからないな」先生は答える。ねえ、先生の先生は、どんな味がすると思う?そんな言葉がふと頭に浮かび、慌ててぼくは頭を振る。「あんなに綺麗なんだから、きっと美味しいと思うよ」ふいに理科の先生が言う。ぼくは曖昧にうなずき、もう一度望遠鏡をのぞきこむ。つまようじの刺さった星が、光り輝くたこ焼きみたいに、堂々と夜空に浮かんでいる。