超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

綿毛

 春。新学期。今年も××君と同じクラスになった。「おはよう」そう声をかけてくる××君。「おはよう」そう返しながら、××君をちらりと見る私。ああ、やっぱり今年も××君、綿毛が生えている。頭のてっぺんに、綿毛が生えている。××君とは小学校の時からずーっと一緒のクラスだったけど、いっつも春になると頭のてっぺんに綿毛が生えていた。たんぽぽの綿毛と同じ、あの綿毛だ。丸い、ほわっとした、白い。先生も親も友だちも何も言わないから、あれが見えているのは私だけらしい。××君自身に見えているのかどうかはわからない。何となく訊けないままこの年まで来てしまった。あの綿毛を見るたびに、「吹いてみたい」という欲求がふつふつと湧いて止まらなくなる。吹いたらどうなるんだろう。どこまで飛んでいくのだろう。飛んでいった先で、何が生えてくるんだろう。たんぽぽだろうか、××君なのだろうか。ひょっとしたら、うかつに吹いたら、町じゅうが××君になってしまうかもしれない。それでもいい、吹きたい!吹きたい!ああ、今年は何だか胸の鼓動がいつもより速い。どうしたんだろう。「どうしたの?××君のことじっと見て」いつの間にか友だちが目の前に立っていて、私の顔をにやにやしながら見つめていた。「何でもないよ」慌てて答えて××君から目をそらす。でも頭は綿毛のことでいっぱいだ。ああ、吹きたい!吹きたいよ、××君!……あれ?これってもしかして恋なのか?と思ったその時、窓から強い風が吹き込んできて……。