超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

東京

 夕日を浴びて、ぼくの影が、部屋の床に長く長く伸びている。部屋にはぼくひとりしかいないから、影もひとつしかない。ぼくにはそれが寂しい。ぼくは寂しさを紛らわすために、てきとうな大きさに影をちぎって、机の引き出しに半端に余っていた切手をみんな貼って、ポストに放り込む。行け、どこへなりと。そんなやけっぱちな気分だ。すると、ちょうど手紙を回収しに来た集荷係が、おびただしい数の手紙とともに、ぼくの影を回収袋に詰め込んで、そのままバイクで走り去っていった。本当に行ってしまった。まぁ、いいさ。ぼくの影なんてどうなろうと構わない、と鼻息の荒いままぼくは考えているが、夕日が落ち辺りが闇に包まれはじめると、少し頭も冷えてきて、宛名も差出人の住所も書かれていない厄介者として郵便局の隅にずっと保管されるよりは、気まぐれな配達員にでも目をつけられて、どこかの郵便受けに気まぐれに放り込まれてほしいものだ、と考え直す。切手もたくさん貼ったことだし。そして、できれば、それはあの人の郵便受けであってほしい、と欲深いぼくは考える。そして、ぼくの影は、あの人のきれいな手で取り出され、ちぎられ、あの人のマンションから見える東京の夜景の一番暗いところに、撒かれてしまってほしい。そして、それから夜風が吹いて、ちぎれた影をみんな暗闇にかき混ぜてしまってほしい。そして……。
 あの人がここにいないから、ぼくはそんなことを考えてしまう。