超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

林檎に着替えて

 林檎に着替えてくるわと言って、彼女は寝室を出て行きました。

 林檎に着替えた彼女は次の朝、庭の木の枝にぶら下がっていました。

 林檎に着替えた彼女はよく熟れて、ちょうど食べごろでした。

 林檎に着替えた彼女をその日の暮れ方、もぎって籠に放り込みました。

 林檎に着替えた彼女をその晩、古い木箱に詰めました。

 林檎に着替えた彼女は次の朝、トラックの荷台に載せられて、市場に売られてゆきました。

 ぜんぶ本当の話です。下手な比喩なんかではありません。