川辺の道を歩いていたら、白くて小さい蟹を見つけた。何となく拾い上げてみたら、甲羅は薄く柔らかかった。
掌に乗せて持ち上げて、沈む夕陽に透かしてみると、蟹は短い手足をばたつかせ、川のにおいを撒き散らした。私の家では熱帯魚を飼っているので、連れて帰って同じ水槽で飼うことにした。
蟹を水槽に沈めると、蟹は色気のない砂の上をうろうろしながら、色とりどりの魚たちが悠々と泳ぐのを退屈そうに眺めていた。ところがある日蟹は熱帯魚を一匹捕まえて、その頭を、絵の具のチューブの蓋のように、ぐるぐると回して外してしまった。
残された胴体を蟹がぎゅっと挟むと、首のところに開いた穴から、青い絵の具がにゅるにゅると搾り出されてきた。それから蟹は両腕を必死に動かし、青い絵の具を体じゅうに塗りたくり、白い自分を誤魔化していた。私が水槽をトントン叩いて褒めると、蟹は誇らしげに泡を吹いた。
それから蟹はその遊びが気に入ったらしく、毎日熱帯魚の頭を取り外すようになり、そのたびに体の色があれこれ変わるので、私も結構楽しんで眺めていたが、そのうち水槽から魚がいなくなって、私は魚に餌をやる理由がなくなり、魚の餌のおこぼれで生きていた蟹も、いつの間にか飢えて死んでしまった。
腐った絵の具と生き物の死骸が底にたくさん溜まった水槽をどうしようか悩んだが、結局ねじってドレスを作った。鏡の前でくるりと回ってみせると、裾は死骸で少し重くて、部屋には川のにおいが広がった。