超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

電球と廊下(クライベイビークライ)

 廊下の電気がちかちかしているので、ふと見上げると、吊り下げられた電球が、去年死んだ子の目になっていた。埃を被った傘の下から、じっと私の顔を眺めている。ちかちかするのは、どうやらまばたきのせいらしい。

 しばらく見つめあっていたが、そのうち何とも言われない気持ちになってきて、思わず目を逸らすと、ますます激しくまばたきをし始めた。たぶん泣くのを堪えているのだと思う。泣けば涙でショートしてしまうのを知っているのだ。

 そのまま背を向けて、部屋に戻ることにした。

 しかし私が電球から遠ざかるほど、まばたきは強く、細かくなっていき、それにつれて目に映る景色がからからと明滅して、まるで古い映画フィルムの中に閉じ込められたような気分になってきた。

 私が急ぎ足で角を曲がると、途端にちかちかも消えた。それからいきなり、電球の割れる音がした。そっと覗くと、小さな水たまりの中に火花が散っているのが見えた。