超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

爪と図書館

 腹をミサイルでえぐられて、怪獣は死んだ。役所は、海にでも宇宙にでも死体を運んで捨てようとしたが、それは大きすぎたし、怪獣の肉や骨や銀色に光る産毛は、いつまで経ってもまったく腐る気配がなかった。そこで、怪獣の腹に開いた穴に図書館が入ることになった。中学生の私はその図書館で、同い年くらいの美しい少女と出会った。少女はいつも自習室の隅の席にいて、膝の上に手を置き、朝から晩までビーフジャーキーの色をした図書館の壁を眺めていた。白いロングスカートがよく似合っていた。彼女は死んだ怪獣の娘だ、という噂が立った。私は彼女に恋をした。
 ある日私は彼女の斜め前の席に座り、何食わぬ顔で学校の宿題を片づけていた。今日こそは何とかして彼女に話しかけようと考えていた。机の端に置いていた消しゴムが床に落ちた。拾うときちょっと期待して彼女の方をちらりと見た。ロングスカートの下から、図書館の壁と同じ色をした、巨大な亀みたいな足の甲がはみ出ていた。爪は黒く、鋭く、何層にも重なっていた。
 噂は本当だった。しかし、それよりも私は彼女がどうやって下着を履いているのかの方が気になった。その日は帰ってからラブレターを書いた。書いている最中に、もしかしたら下着を履いていないのかもしれないと思った。朝になってラブレターを読み返し、恥ずかしくなって破り捨てた。それから毎日図書館に行き、毎日消しゴムを落とした。
 ある日いつものように彼女の足を見ると、爪にペディキュアが塗られていた。下っ腹がむずっとした。