超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2024-07-01から1ヶ月間の記事一覧

プリセット

このスマホには火葬場の写真がプリセットで入っているので、わざわざ火葬場を撮る必要はない。

天井裏で飼っている狼は、僕が毎晩眠る時に数える羊を食べて生きている。

くしゃみ

噂話された時に出るくしゃみを抑える薬を買っていった人がいて、どんな噂をされてるんだろね、と皆で噂する。

その平凡な蝶は信号機の青い光の周りを飛び回り、つかの間、自身の翅が青く染まるのを楽しんでいる。

リセット

社長が帰った後、社長のデスクのひきだしにある、社員がついたため息の数を数えるためのカウンターを、リセットしておく。

雨がやんできたが、虹を作る機械はまだ壊れているので、誰も空は見ないだろう。

夕暮れの公園で、蟻を一匹潰すたび、自分の影の色が薄くなっていくことに気づく。

変わった

法律が変わったので、夕焼けの色も変わった。

検査

健康診断の蝶力検査で飲まされた、スポイト一滴分の花の蜜が、去年よりおいしくなっている気がする。

プレゼント

誕生日に幼い妹から、可愛い絆創膏とナイフをセットで贈られた。

両用

次に生まれてくる子どものために、少し高いけど、善悪両用の魂を買う。

共用

市民公園の木に吊されている市民共用の首吊り縄は、誰も使わないため、子どもたちがボールを投げて輪に通す遊びをしている。

蝶を売っている自販機の光に蛾が集まってくる。

電車

電車が処刑場の傍を通る時、乗客たちは皆スマホから顔を上げて処刑場を見たが、今日は誰も処刑されていないので、再びスマホに目を戻した。

宿題

夏休みの宿題の自由研究のために、義姉を浮気させる。

シャボン玉

銃痕のあるシャボン玉が戦場をゆっくり漂っている。

デート

いつもデートの時は母親の位牌を持ってくる彼女が、今夜はそれを持ってきていない。

水たまり

水たまりにだけ自分の本当の顔が映ると信じている醜男が、部屋で一人じっと雨上がりを待っている。

給料日

給料日にだけ、父は人魚になる。

懺悔室

蟻の巣の中の懺悔室に一粒の砂糖が運ばれる。

今日は本当に雨が降っているので、病床の母に「今日も雨だよ」と嘘をつけない。

太陽

今朝、地平線の上に、太陽の代わりに「GAME OVER」の文字が昇った。

かつて、地面を白いチョークで塗りつぶし、地球を白くすることを夢見ていた少年は今、黒の油性マジックを握りしめている。

人形

金持ちの家の子に人形をもらった貧乏な家の子が、家に帰り、その人形を石けんでゴシゴシ洗い続けている。

ティッシュ

涙用のティッシュを買ったら、一枚しか入っていなかった。

青空

青空の真ん中に、神様の浮気相手が残していった雲がぽつんと浮かんでいる。

人形

夜道に捨てられていた人形を拾い上げると、生温かかった。

カエル

カエルがいなくなった田んぼに、「カエル」と書かれた紙片が無数に浮いている。

転職

後輩がうちの会社を辞めて、蝶を作る工場に転職するというので、蝶製造は給料少ないらしいじゃないか、と俺が言うと、彼は照れ笑いを浮かべて、カミさんが庭に花壇作ったんすよ、と答えた。

震え

買い物かごがケチャップ売り場で震え始めて、そういえばさっきトマトを入れたことを思い出す。