超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧

草花

雨水や中庭の草花を集めて、死刑囚が蘇生薬を作ろうとしている。

点滅

自室の裸電球の点滅を見た老医師が、町の電柱に精神安定剤を注射しに出かける。

注意

ある日役所から、俺が深爪しがちなことを注意するハガキが届いた。

悩む除湿器に、海を見せる。

友情

夏祭り、のれんに「友情」と書かれた屋台で、病気の金魚が売られている。

吊り革

混んでいるのに誰も触れない吊り革を握ったら、その瞬間、「ありがとうございます」と車内アナウンスが流れた。

ぼろぼろ

ぼろぼろのお婆さんがコンビニで、三角形のおにぎりを手に取り、丸い形に握り直そうとして、店員に止められていた。

自販機

子どもの死体を背負った老婆が、天使の自販機の前で小銭を数えている。

地球滅亡の日の朝、靴下の穴に気づき、しばらくぼんやりしていた。

ねむい

額に「ねむい」と書いた紙を貼っているおじさんが、電車で眠っている。

飼育委員

小学校で飼育委員だった少年が、卒業の日、飼育小屋に火をつけた。

お守り

恋愛成就のお守りの中に、記憶をリセットする薬が入っていた。

煙草

段ボールハウスの内壁に書かれた「禁煙」の文字の前で、ホームレスが木の枝を煙草大に折っている。

風船

子どもたちに風船をとりつけられた小鳥の死骸が、ゆっくりと空に昇っていく。

こちら

レストランの料理長が調理前にやってきて、「こちら、前世は盗癖のあった女です」と、豚肉の塊を見せてくる。

あくび

政府による今日のあくびの制限は三回なので、夜寝る時と会社の昼休みと、あと一回はいつにしよう。

処刑が行われたばかりの処刑場はなぜか涼しいので、夏に処刑が行われると、僕たち子どもは喜んだものだった。

中年のスーツの男が、快晴の青空の下、公衆電話で誰かに「こっちも雨が降ってるよ」と言っている。

火葬場に組まれたクイズ番組のセットの中で、解答者たちがボタンに手をかけながら、煙突から煙が出るのをじっと待っている。

おばあちゃんは年だから、夕飯は惑星一個で充分だよ。

効能

「効能」の札に「殺意」と書かれている温泉に通じる脱衣所に、包丁の忘れ物があった。

追跡

息子が死んだ時に発行された追跡番号で、息子の魂を追跡したら、あの世に行く前におもちゃ屋に寄っていた。

ご自由に

病院の前の「ご自由にどうぞ」の手術台が、今日は赤く汚れている。

今年も誕生日に、油性ペン片手に墓地に行ったが、とうとう僕の身長は父の墓石を超えてしまった。

扇風機の葬式の日は、風が強かった。

おしぼり

そのおじさんは、喫茶店のおしぼりで、手だけでなく、顔や、膝の上の頭蓋骨まで拭いていた。

交換

太陽を交換してくれた巨人が、指先を湖に浸して、そっと火傷を治している。

笑う豚

定食屋で豚カツを食っている時、店のテレビに笑う豚が映っていたので、チャンネルを変えたが、今夜はどの番組でも豚が笑っている。

帰宅

帰宅したら、玄関の外で包丁を握りしめて立っていた母が私に、「第一問」と言った。

チリン

その老人は火葬場の前を自転車で通り過ぎる時、誰かが焼かれていると、必ず、チリン、とベルを鳴らす。