超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

バイト

耳工場の検査室でピアノを弾くバイトをクビになった。

神輿

0点のテスト用紙を握りしめてとぼとぼ歩く少年の背後から、脳味噌の形のオブジェを載せた神輿が近づいてくる。

前日

三角コーナーの中で興った文明で、生ゴミの日の前日に、神が誕生した。

通販で買った高級な指で、最初に触れるのは、ピアノか犬か、どちらにしよう。

仲直り

整形手術の日の朝、鏡の中から仲直りを申し込まれる。

悪夢

たこ焼き屋の親爺が悪夢から目を覚ますと、自分の両手がかつお節まみれであることに気づいた。

月光

月光がゆっくりカーテンを切り裂いていく。

無料

野菜の無人販売所に、「美人無料」との貼り紙があり、その下に鏡が置かれている。

小人

コンビニの募金箱の中に小人が閉じ込められていて、硬貨は痛いから入れないでくれ、と懇願してくる。

全ての星が光を失った夜空の下で、街灯にインタビューする。

都会で一人暮らしをする俺の部屋に、実家から届いた段ボール箱には、嘘をつくための舌が入っていた。

胎児の形をしたマグネットが道に落ちていたので、自分の腹にあてがってみるが、当然くっつかず、また道に落ちてしまう。

ゲソ

網でイカを炙っている時、縮こまっていくイカがゲソの先端で空中に「タコ」という文字を書いていることに気づく。

目の前を通り過ぎていった霊柩車が、ゆっくりバックで戻ってくる。

また人が月をミサイルで壊してしまったので、神様は鼻をかんで丸めたティッシュを夜空に放った。

右目

右目に眼帯をつけた大道芸人が動かす操り人形が、自身の右目をかきむしっている。

コピー

早朝のコンビニで、喪服を着た人が、自身の泣き顔をコピー機に押し付けて、何枚もコピーしている。

雨が降る公園の隅で、「虹が出たら起こしてください」と書かれた手作りの看板を置き、ホームレスが眠っている。

老夫婦

その老夫婦は毎月一回産婦人科を訪れて、天体望遠鏡を覗いて我が子の成長を確かめている。

母の心電図が止まった瞬間、母の枕もとに置かれていた花瓶の中のつぼみが、開花した。

コンビニの喫煙スペースで煙草を吸っていたら、「火を貸してください」と、火葬場の職員がやってくる。

指一本を詩一篇と交換してくれるおじさんが刑務所から出てくる日まで、毎日爪を綺麗に磨いている。

紙飛行機

死ぬ人がいない町の役所の床に、死亡届で折られた紙飛行機が無数に落ちている。

その焼き芋屋は、刑務所の前を通る時、わざと声を張り上げる。

缶詰

夕方の墓地に、坊さんが人魂の缶詰を開けている音が静かに響いている。

晴れ

お父様の処刑の日は晴れさせてあげてね、お母様。

いまさら

火葬場の煙突から出る煙がハート形になっていて、いまさらかよ、と思う。

遠回り

助手席の未亡人に海を見せるため、霊柩車は遠回りをした。

ひび

毎日、理科の先生に、プロポーズの練習の相手をさせられていた人体模型の心臓が、先生の結婚式の日、ぱきっとひび割れた。

ロマンチスト

午後の電車に乗っている老夫婦の妻が、白目をむく夫のおでこの穴に挿したイヤホンで何かを聴いていたが、ふいにイヤホンを取り、夫に「ロマンチストね」と笑いかけた。