2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧
私と彼の二人しかいない星の海に、まだ見ぬ人へ宛てたラブレターを詰めた瓶を流す。
鼠を捕まえたので、ペットの機械を猫モードにし、鼠を放り込むと、機械は嬉しそうに振動し始めた。
百円均一ショップで、夫の浮気相手の名字のはんこを買い、自分の手の甲に捺してみる。
母の骨壷が発するカタカタという音が聞こえないよう、私と伯母はひたすら話題を探して喋り続けていた。
金魚すくいの屋台のおじさんは、僕に金魚を手渡しながら、金魚語の「ごめんね」を教えてくれた。
夕日狩りに出かける狩人の影が夕日に照らされて黒々と光っている。
夜、冷蔵庫の中で行われている卵たちの舞踏会の、静かな物音を聞きながら、眠る。
立ち食いそば店で隣にいるおっさんが食っているかき揚げの具が、どうも折り鶴のような気がする。
宇宙から帰ってきた夫は、家じゅうの時計の針を一分進めた。
夏の昼下がり、風鈴の音にも致死量があることを知る。
救急車に、人の声を真似るぬいぐるみが置かれており、搬送される人々のうめき声を楽しげに真似ている。
夜空を飛んでいる飛行機の機内に、一瞬だけ線香の香りが漂った後、しばらくして、「気にしないでください」とのアナウンスが流れた。
霊柩車のカーラジオでしか受信できないラジオ番組の今週のゲストは久しぶりに、生きている人間だった。
今年も町に夏が来て、「入道雲は皆の物です」と書かれたチラシが配られ始めた。
最後の人間の剥製を作っているロボットが、中に詰める綿の感触をしばらく楽しんでいる。
白い羽に赤い「不可」のスタンプを捺された蝶が、殺虫剤の缶をペロペロ舐めている。
近所の裏路地で野良猫の集会に出くわしたが、よく見ると集まっている野良猫のうち三分の一くらいが、誰かが置いた剥製だった。
養豚場内にある心療内科の診察室の壁に、カツ丼の写真が貼られている。
楽器店に人間の形の楽器が置かれており、どうやって弾くのかと店主に尋ねると、店主は店の奥から首吊り縄を持ってきた。
地上の刑務所で自由時間が始まり、雲の上に腰かけていた釣り人たちは、刑務所の庭に向かって、釣り針を一斉に垂らした。
雷売りのおじさんが軽トラの運転席で居眠りしていたが、そのいびきが売り物の雷よりうるさくて笑ってしまった。
久しぶりに墓参りに行ったら、墓石がうっすら濡れていて、その液体の中で無数の蝿が溶けている。
アパートの隣室から聞こえてくる赤ん坊の泣き声に、ノイズが混じり始める。
六月のある日、女性刑務所から、死刑囚の左手の薬指だけが、脱獄した。
夜中、粗大ゴミ置き場から聞こえてくるやかんの寝言を聞いていたら、カップラーメンが食べたくなってきた。
何も映らない鏡にセロハンテープで自分の写真を貼って、力なく笑っている。
妊婦を模した案山子の足元で、一羽の鳥が卵を温めている。
夜、恋人の耳から漏れてくる光で目が覚めたので、眠い目をこすりながら愛を囁くと、光はふっと消えた。
なけなしの小遣いで雨雲の素を買った少年が、団地中のベランダに干されている洗濯物をじっと睨んでいる。
全ての生命が滅びた星で、造花がゆっくりと匂い始める。