超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

バス

夜明け前、町じゅうの寺の仏像が、そのバスが来るのを待ちながら、バス停に一列に並んでいる。

腸園に行き、檻の中の野球選手の腸がボールで遊んでいるのを見ている休日。

水平線

これがね、この世界が出来たばかりの頃、水平線の代わりにしてた針金だよ。

天気予報

明日の天気予報を見て 肥満児の双子の兄は地図にハンバーグが表示されていた東へ 弟は寿司が表示されていた西へ旅立った

木々

これ以上木々が紙幣にならないよう 森に火をつける旅に出る

下手

夜の窓辺 素っ裸で月光を浴びていた女が ふいにため息をつき「下手ね」と呟いて 部屋を出ていく

マイナス

腐った時計が示すマイナスの時間の中で生きている

占い

俺は 毎日 脚の数が違うから それ見て占いが出来るんだ 俺は

シール

殺虫剤の缶に「虫の自殺防止月間」のシールが

花たちが収監されている刑務所の外に雨が降っている

お出かけ

刑務所に勤めている夫に ある休日 「泣いている囚人でも見に行かないか」とお出かけに誘われる

間引き

ダッチワイフ農家でアルバイトをしているが ぼくには 間引かれたダッチワイフたちの方が美人に見える

ボタン

独房の壁に「さびしいときに」と書かれたボタンを見つけた囚人が それを連打しているが いつまで経っても何も起こらない

お地蔵様

下水道に設置されているお地蔵様の視線の先に

治療

ドウブツビョウインに行ってから ニンゲンの言葉がわからなくなった

星を捕る罠を作るから お前の妹の涙が欲しいんだ

禁煙

禁煙中の叔父が 火葬場の煙突から出る煙を見た瞬間 ごくりと唾を飲んだ

停電

暗闇で母が仏壇を叩いた瞬間 家が停電から復旧した

ほつれ

三日月の端がほつれていたのでちぎって捨てたら流れ星になった

七輪の熱で開いた貝の中には 「辞表」と書かれた封筒の他なにも入っていなかった

ご自由にどうぞ

商店で首吊り縄を買おうとしたら 店番の婆さんに あの公園の奥の木に「ご自由にどうぞ」の首吊り縄があるよと言われた

花壇をふと見たら 「蝶②」と書かれたピンク色の付箋が チューリップの周りを飛び交っていた

ひいひい祖父さんが核シェルターの中で書いたという詩を読んでいた母の触角が細かく震え始めた

ぼくが二人映っている川の水を飲む

夜空

病院の窓から暗い夜空を眺めながら 隣のベッドで寝ている月に「あそこに帰りたい?」と訊くが 月はかすかに光りながら 寝息を立てるばかり

遊び

ジャンケンに負けた奴が 刑務所に向かって「馬鹿」と叫ぶという遊びを 幼い頃にやっていたことを 独房の中でふいに思い出す

ぼくが寝る時いつも 頭の中で数える羊たちを おっきなスプーンですくって食べちゃうあのおっきな人 誰?

ウェディングドレス

ウェディングドレスを着た電信柱がじっと雷を待っている

前世

あたし 前世が蛸だった男にばっかり告白されるんだよね

結婚式

ぼくと この本の 結婚式を 挙げてくれませんか