超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

美容外科

「ブスにしてください」と私の美容外科を訪れたその女性には、双子の姉がいるそうだ。

電池

「電池が切れたんだよ」外で遊んでいたら自分の影が突然消えたことを祖母に告げると、祖母はテレビを観たままそう言った。

<図版3>初期の肉時計。針はへその緒である。

虫眼鏡

夏の公園で一人、虫眼鏡で日光を集めて蟻を焼いていたら、知らない女の人がやってきて、本みたいなのを渡された。家に帰って母ちゃんに見せたら、「これシンコーシューキョーだよ」と言われた。

着ぐるみ

遊園地に行ったら、マスコットキャラの着ぐるみが、コミカルな動きとともに、手話で「死にたい」と繰り返していた。

蝶塗り・時給950円~・ご連絡は春の神まで。

ダッチワイフのぽかんと開いた口の中に入れた抗うつ剤を、舌でたぐり寄せて飲む。

足首

満員電車に揺られている時、何だか足首がくすぐったいので、下を見ると、隣の男が操る操り人形が私の足首に頬ずりしていた。

陣痛

ものすごい陣痛だったが、股の間から出てきたのは、将棋の「桂馬」の駒一つだった。

電話ボックス

「熊出没注意」の看板を見ていた熊が、肩を落として、山道の途中にある電話ボックスに入っていった。

車窓

ふと見上げた車窓の向こうに、満月が二つ浮かんでいるのを見て、もうこの終電からは降りられないかもしれない、と思う。

祖父を火葬した台車の中から、職員が見たこともない骨を一つ拾い上げて、「おじい様は嘘つきでしたか?」と尋ねてきた。

首吊り自殺をした兄の足元に、ありとあらゆるAV女優の名前が書き連ねてある紙が置かれていたのだが、これは遺書なのだろうか?

金魚

ある夜、ふと、金魚鉢の中の金魚たちが、明らかに、水面に映る満月を避けて泳いでいることに気づく。

冷蔵庫の冷凍室を開けると、そこに母の耳。キンキンに冷やされている。ゆうべ、父に恥ずかしいことをたくさんささやかれたのだろう。

その仏像に鏡を見せたら顔からひび割れていき、中から赤ん坊のミイラが出てきた。

夜、母が誰かとスマホで電話しながら鏡の前で、「はい……鏡を見ています……はい……美しくありません……」

雨上がりの町を歩いていたら、濡れた道の真ん中に、掌の形に乾いた跡がぽつんと残されている。

「好きです」から「ごめんなさい」の間に蚊にくわれた。

いつからか、母は祖母の病室に飾られた花の世話をしなくなった。花が完全に枯れた朝、祖母は静かに息を引き取った。

じじいの葬式のため家族がみんな出かけるというので、「俺行かねぇから昼飯代置いてけよ」と言って親からもらった金で花を買い、一人、ばばあの墓参りへ。

死んだ娘の日記を肴に酒を呑む。2月14日の日記でよく酔う。

電車で、私の目の前の席に座り、文庫本を持ったまま眠っているお姉さんの、その文庫本のページとページの間からはみ出ている栞が、どう見てもへその緒だった。

俺が地獄に落ちる寸前、天国から駆け付けたばあちゃんが、俺の手に握らせてくれたこの飴を、いつ舐めるか。

夕日

夕日をバックに、小学生がとぼとぼと、猿の首を蹴りながら歩いてくる。

墓石

墓石に精液。

墓石

線香も花も何もない墓石の前に、一万円札が無造作に供えられて?いる。

派手な鳥

派手な鳥だなぁ、と思っていたら、神様が他の動物を作った時余った切れ端で作ったんだそうだ。

遺骨

父の遺骨は父の母校の女子更衣室に撒かれた。

地下鉄

地下鉄の駅のゴミ箱に、天使の羽根と輪っかが捨てられていた。