超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

将来

私、将来は、先輩が社長をやってる会社のビルから飛び降りて死にたいです!

少年

私が店番をしていた花屋に現れたその少年は、私に刃物を突き付け「おとなしくしろ」と凄んだ後、赤い薔薇を一輪奪って、逃げていった。

月光

夜、ベッドで眠る女。俺はカーテンを開け、女の手を取り、月光にさらす。よかった。この女は溶けない。俺はカーテンを閉め、女の手にキスをする。女が、光る目を開けた。

四十九日

婆さんの四十九日が過ぎると、婆さんの猫はふらりと帰ってきた。

焼き上がった祖父の頭蓋骨に小さな穴が無数に開いていた。「空気穴です」火葬場の人が言う。「中で虫を飼ってらしたんでしょうねぇ」

死にかけの蝉

地面に落ちてる死にかけの蝉に、半額シールが貼られていた。

「死んでやる!死んでやる!死んでやる!」と誰かが中で叫んでいるエレベーターがゆっくり昇ってくる。

なのに

明日絞首刑なのに首のところを蚊にくわれた。

真夏

真夏の夜、廃屋の壁に、人間の形に、蚊がびっしりとまっている。

遺骨

祖父の遺骨は半分に分けられ、私たちの方は墓に、知らないお姉さんに渡された方はペット霊園へ運ばれた。

入浴中、ふと窓の外を見ると、誰かに覗かれていたので、悲鳴を上げると、人影は逃げていった。慌ててお父さんを呼び、見に行ってもらったら、お父さんは「窓のところに置いてあった」と、五百円玉を一枚持って帰ってきた。

犬の絵

へったくそな犬の絵が描かれた段ボール箱を抱いてホームレスが眠っている夜、どこかで犬が吠えている。

思い出す

あの日、娘が亡くなる直前に言った、「てんごくにはしゅじゅつある?」という言葉を、どうしてだろう、最近、無性に思い出す。

鼠の死骸

休み時間、学校の駐車場の隅で一人、鼠の死骸を見ていたら、学校一の嫌われ者の先生がやってきて、「給食」とだけ言って去っていった。

知る

ラブホテルのテレビで妻の訃報を知る。

病床で虫の息の母を見て泣いていたら、母は「やっぱりあなたは頭が悪いわね」と笑い、そのままの笑顔で息を引き取った。

ミニトマト

「お父さんが帰ってくるまでここにいさせてね」と家に上がり込んできた父の愛人の女の人が、母が育てている家庭菜園から、ミニトマトをもぎって次々食べているのをぼんやり見ている。

蹴った

妊婦の腹に耳を当てる男。「あっ、蹴った、蹴った」妊婦が微笑んで言う。「やっぱり、本当のお父さんだってこと、わかるのね」

台所に仕掛けたゴキブリ用の罠を覗いたら、粘着シートの上で、一匹のゴキブリが座禅を組んでいた。

先生

久しぶりにあの子の顔が見たくなったんで、先生、またレントゲン写真撮ってくれませんか、先生。

今年は雷が多かったから、へそ屋はずいぶんもうかったそうだ。

強い

ぼくが一人、ヒーローと怪獣のフィギュアを戦わせていたら、引きこもりの兄が突然部屋に入ってきて、「火が一番強いんだぞ」と言いながらフィギュアをライターで炙り始めた。

風船

文通を求める手紙付きの風船が刑務所に落下した。

かわいそう

ホームレスらしきおばあさんがお地蔵様に供えていった饅頭のような何かを、「お地蔵様がかわいそう」と、足で蹴り飛ばす母。

ブランコ

夜中、二人のサラリーマンが、公園のブランコに腰かけて、月を見上げ、「俺、本当は月の国の王子様なんだ」「マジすか」と話している。

留守電

勤め先の火葬場の留守電に、「ナマヤケ」と一言だけ吹きこまれたメッセージ。

背中

動物病院の駐車場で、女の人がうずくまって泣いていて、その女の人の背中を撫でながら、男の子が「ぼくわんわんになる、ぼくわんわんになる」と叫んでいる。

面接

同じ大学の友人数人と同じ会社の面接を受けたが、面接官に「蛇を殺したことはありますか?」と訊かれたのは私一人だけだった。

雑記。

趣味で小説を書き始めて、十年くらい。超短編小説という形式に出会って、三年くらい。まだ楽しい。まだ、いける。ぼくには才能はないけれど、根気はある。才能のないものを晒している恥よりも、書く楽しさが、まだ、勝ってる。いつかふいにやめるかもしれな…

電話番号

合コンで可愛い女の子にこっそり手渡された電話番号に、次の日、ドキドキしながら電話をかけたら、なぜか捨て犬の保護施設に繋がった。その女の子が勤めているわけでもなかった。その子とは、合コン以来会っていない。