2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧
千羽鶴の燃える匂いが好きだ。それを贈られた人が重症であればあるほどいい。だからこれも……。
人混みを抜けると、義眼をすられていることに気づいた。
おじさんのこと、誉めてくれたら、百円あげるよぉ、ねぇ、おじさんのこと……。
マジックショーを観た後、会場をうろついていたら、楽屋へと続く廊下で、手品師の前に骨壺を置き、両手を合わせて何やら拝み倒している老婆を見た。
幼稚園の遠足で行った刑務所で、死刑囚のおじさんに、「幸せになれよぉ」と言われる。
蟻のSNSで、うちの娘がお菓子の食べかすをぼろぼろこぼす動画が話題になっているそうだ。
お前の顔をスマホで撮ると、「××殺人事件の真実」ってサイトに飛ぶんだけど、何なのこれ?
「行ってはいけないよ」と言われていたペットショップの二階で初めて、ぼくとお父さん以外の人のおちんちんを見る。
「久しぶりだね」道ばたで知らないおじさんに声をかけられた。「誰ですか?」と訊くと、おじさんは「昔、君、俺を抱いて寝てたじゃない」と言った。おじさんをよく見ると、顔の真ん中に縫い目があって、目玉がビーズ玉だった。
まぁ、体は猫だから、猫の顔のお面をかぶせれば愛せる、かな?
きょう、うとうとしていたら、だれかが、びょうしつに、はいってきて、ぼくの、しんでんずをみて、したうちしていた……。
こちら新発売のモデルでして、愛情が冷めないので倦怠期に強いタイプになっております。
助産婦が取り上げた赤ん坊のお尻のバーコードをピッと読み取り、「3位ですよ」医者は私にそっと耳打ちした。
まだ未完成だった頃、「それ」は、理科準備室をたびたび逃げ出しては、音楽室の前に行き、扉に耳を当てて、××先生のピアノの音にじっと聞き入っていたものだった。
夜空を見上げる。誰かが星占いをしている。「好き」「嫌い」「好き」「嫌い」……。声がするたび、星が一つ爆破されていく。
物置の奥の砂時計。「絶対に触ってはいけないよ」とおばあちゃんに言われていたが、好奇心が勝ってしまい、おそるおそるひっくり返すと、砂が落ちたガラスの内側に、無数の小さな掌の跡が。
満員電車でうとうとしていたら、とつぜん「寝顔もかわいいねぇ」という車内アナウンスが流れ、はっと顔を上げると、乗客が全員私を凝視している。
先祖が代々眠る墓石から腹の鳴る音が聞こえてきたら、近いうちに必ず、親族の誰かが亡くなる。
妊娠中の妻の大きな腹に耳を当ててみたら、中からジャラジャラと数珠をこする音が聞こえてくる。
料理好きの彼女に「あなたの食べ方がわからない」と言われてフラれる。
校庭の隅に、いつでも虫の死骸が落ちている場所がある。たまに猫やカラスも死んでいる。先生たちは目を伏せて「ただの偶然だよ」と言う。イタズラでそこを掘ってみた後、「何かの骨が埋まってたぜ」と得意げに話していた友だちは、まだ入院中だ。
夜中、何かが枕元で動いている気配がするので、そっと目を開けてみると、窓際に吊していたはずのてるてるぼうずが、私のスマホで明日の天気を確認していた。
わき腹のネジを締めてもらったら、猫背がなおった。ぼくがこういう体だって知ってるお医者さんだと、やっぱり、話が早いや。
失踪した妻と同じ結婚指輪を脚にはめた蛸が、生け簀の底からじっと私を見つめてくるので、私は一つ大きな息を吐き、「すいません」店員を呼んだ。
うちの飼い猫は鏡や水面があると必ず覗きこむ。そして前足で自分の顔をぺたぺた触る。ある日うちの庭に倒れていたのを保護した猫である。うちに来る前は猫じゃなかったのかもしれない。
校長先生が朝礼で、「花壇を荒らした生徒は早く名乗り出てほしい、給食の時間になればわかることなんですよ」と言っていた日の休み時間、給食室の換気扇を外から見ると、七色の湯気が噴き出している。
あのマンホールの上を通ると必ず靴紐がほどけるのだが、今日はほどけなかったので、どうしたのかな、と思いつつ家に帰り靴下を脱ぐと、足の親指の爪が剥がされていた。
「うちの寺は本当に暇だから……」住職はそう言いながら、本堂の仏像が膨らませていたフーセンガムを、箒の先でぱちんと割った。
どの産婦人科に行っても、エコー写真を撮ろうとすると機械が動かなくなってしまうので、何を身ごもっているのか未だにわからない。
びちゃっ……べちゃっ……びちゃびちゃびちゃびちゃ……見上げると……空が裂けて……ああ……やっぱり……抜糸はまだ……早かったみたいだ……。