超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

賞味期限

賞味期限・耳の裏に記載。

お父さん

お父さんとは月に一度水族館で会えるから寂しくはないし、いつも一番きれいなウロコをくれるので嬉しい。

宇宙船の窓から見える地球には、今日も「調整中」の張り紙が。

「実は、常連さんにしか出さない肉があるんですけどね」と言って肉屋の親爺は、自分の娘からくまのぬいぐるみを取り上げて、その腹を包丁で裂き始めた。

不思議な鋏

不思議ねぇ。お義母さんの遺影を切り刻んだ鋏だけ、錆びるのがはやいみたい。

ふて寝

天気予報を見ていたら、私の住む地域にハートマークが。「明日は独り身の方は外出を控えてください」、気象予報士が言う。くそっ、ふて寝だ。

のど仏

「……あ、のど仏はキャンディーなんだ」、彼の胸からイチゴジャムまみれの包丁を引き抜いた時、ふと気づく。

おばけ

ねぇ、知ってる?「おばけのおじさん」、昨日、電車に飛び込んで死んだんだって。おばけじゃなかったんだね。

謝罪

「昨日の夜、夢の中で殺しちゃってごめんなー」と言いながら友人が千円をくれた。

遺跡

古代遺跡の奥で見つかった電池ボックスのような箱の中に入っていた乾電池のような物体を、探検隊の一人が抜いてみた瞬間、世界中の男性の動きがぴたりと止まった。

学校

下校の時刻になりました。1番から15番の生徒は理科室のカプセルに、それ以外の生徒は速やかに自宅に帰宅してください。明日もいじめのない学校を作りましょう、さようなら。

最近、ふと気が付くと、兄が首を吊った木に後を尾けられている。

骨壺に蟻がたかっているのを見て、つくづくさいごまで甘い人だったと感じる。

スペシャルランチ

角の定食屋が「スペシャルランチ」の看板を出すと、近所中の犬たちが一斉に遠吠えをし出す。

解答

問1:ア、問2:ス、問3:ト、問4:モ、問5:ニ、問6:シ、問7:ノ、問8:ウ、問9:23時00分。

桜餅

幼い頃、映画を観ていたら自然と涙が溢れてきて、その涙を舐めたら確かに桜餅の味がしたのだが、あの時何の映画を観ていたのか、いまだに思い出せないままでいる。

太陽

老朽化したはりぼての太陽が燃やされる様は、ずっとずっと昔、幼い頃に見た本物の夕日に、少し似ていた。

霧の発生源は寝たきりの祖父の部屋だった。

星医者

そしてその星医者はただ首を横に振り、強情なぼくらを残して地球を後にした。

ハム

改札にハムの切れ端を通してホームへと下りていった紳士が、やがてやってきた豚だらけの列車に乗ってどこかへ去っていった。

ピエロ

叔父の告別式に出席したら、入り口にピエロがいて、泣かなかった参列者に風船を配っていた。

タイプ

ああ、いるよね、剥製にすると美人になるタイプの女の人。

プレゼント

おばあちゃんが天国に召されて以来、ぼくの誕生日には毎年必ず、空に虹がかかる。

ゴミ袋

一際重いゴミ袋が収集車の回転板に巻き込まれて潰れた瞬間、このゴミ捨て場に着いた時からずっとどこからか聞こえていた子守歌が、ぴたりと止んだ。

引き上げた網の中に、木魚のバチを持った蛸がいたので、先輩の漁師にこれは何かと尋ねたら、先輩は「こんな網に引っかかるなんて和尚も老けたなぁ」とため息をつき、「こいつは戻してやらないと海が荒れるんだよ」と苦笑いしながらその蛸を海に放り込んだ。

CM

ぼくだけが売れ残ったため、家族全員のものからぼくだけのものにリニューアルしたCMを、一人の家で膝を抱えながら観ている。

祖母

この間死んだ祖母だが、どうも死んだ気がしないので、墓を暴いて調べてみたら、骨壺に骨ではなく砕いた鏡が入っていた。

耳掃除

ちょっとあなた、××ちゃんの耳掃除するから、脚立持ってきて。

歌声

葬儀の最中、息子が入っている棺桶からか細い歌声が聞こえてきて、息子の学校の合唱コンクールが始まったことを知る。

人形

娘がどうしてもあの「人形」で遊びたいと言うので、必ず私の目の届くところにいるよう厳しく言いつけ、「人形」の手錠を外す。