超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

寝癖

寝相が悪いせいか、朝起きると自分の影に寝癖がついてしまっていることがよくある。寝癖のついた影は、ちょうどストローの袋をくしゃくしゃに丸めてまた広げたものとよく似ている。水とドライヤーで何とかしようとしても、床や壁がびしょびしょに濡れるばか…

ページをめくる音がして、久しぶりの朝がやってきた。立ち読みじゃないといいな。

ユウレイ

墓場の隅に「ユウレイ 1」と印字されたレシートが落ちていた。サービス精神旺盛な住職だ。今度夜中に来てみよう。

鼻歌

三日月の鼻歌がうるさくて眠れない。きっと近くを通りかかった飛行機のCAが美人だったんだろ。

泡と目

子どもの頃、友人と一緒に近所の夏祭りに行った時、立ち並ぶ屋台の中に金魚すくいがあった。いつもなら通り過ぎるだけだったが、ちょうど生き物に興味を持ちはじめていた私は、何となく屋台の前で立ち止まり、金魚たちの泳いでいる水槽を覗きこんだ。すると…

子どもがいなくなって廃校になったのだという小学校に忍び込んでみたら、いたるところに「密漁禁止」の看板が立てられていた。

はらわた

理科室にある鹿の剥製の、目玉がわりのビー玉が、キラキラ光っている。キラキラ光っているのは、ビー玉が濡れているせい。鹿の剥製が、泣いているのだ。剥製が泣くのは、決まって夕日の綺麗な放課後。窓の外に、校庭を走る運動部員がいる時。いっしょに走り…

マネキン

朝、通勤のために裏路地を歩いていると、道の真ん中にマネキン人形が横たわっていた。何だこれ、気味悪いなあと思いながら通り過ぎようとした時、マネキンの首に、ちぎれたリードと首輪がついていることに気がついた。……え、お前、どっかから逃げてきたの?

セーター

夢の中で、落ち葉を踏む音が近づいてきたら、友だちが来てくれている証拠です。ある秋に死んだ友だちが来てくれている証拠です。天国の土産話をたくさん持って。私たちは落ち葉のじゅうたんの上に寝転がって語り合います。夢の外でたくさん疲れた私に、友だ…

友人の家の仏壇に飾られている、赤ん坊の遺影。幼くして亡くなった息子さんの写真だが、先日用事があり訪ねていったところ、遺影の喉の辺りが、鋭利な刃物で引き裂かれているのを見つけた。「これ、どうしたんですか?」私が尋ねると、友人の妻は苦笑いして…

赤ら顔

勤務先の水族館から蛸が逃げた。残された蛸つぼを調べてみると、内側に何かの計算式のようなものや人体をあらわした図のようなものがびっしり書き込まれていた。これはやっかいなものが逃げ出したと全力で探しているもののいまだに見つかっていない。が、私…

太陽の耳

今日は、太陽の耳が出ている。あいかわらずの福耳だ。やわらかそうな耳たぶに触れてみたいけど、脚立はおろか、はしご車でだって届かないだろう。今日は、太陽の耳が出ている。何をきいているんだろう。風の音、波の音、鳥の声、赤ん坊の笑い声、クラクショ…

待ち針

母が死んだ。母の遺品の中に、古ぼけた裁縫箱があった。蓋を開けると、ある一本の待ち針と目が合った。そっと手を伸ばしたら、待ち針は私を避けるように針刺しから飛び出して、私の手をぷすりと刺した。血が出た。ついかっとなって、待ち針の頭の丸い部分に…

薄雲

ベランダに出て、夜空を見上げると、薄雲の向こうに、「充電中」の小さなランプが光っていた。きっと明日は、明るい月が見られるだろう。

疑問符

息子と川へ釣りに行ったのだが、釣り針を持ってくるのをうっかり忘れてしまった。仕方がないので、息子の発する疑問符を採って釣り針に加工することにした。自分のでもいいが、なぜか疑問符という物は子どもの物の方がしっかりしていて丈夫なのだ。さっそく…

授業

授業中、どこからか教室に迷い込んできた老いた野良猫が、チョークを一本くわえてそのまま出ていった。放課後、子猫の集団とすれ違った。みな一様に「ひとつかしこくなった!」と言わんばかりに目を輝かせ、耳をピンと立てていた。かつおぶしのねだり方とか…

そっち

クラスで飼っている金魚が一匹死ぬたびに、教室の時計が止まる。不思議な現象で、原因がわからない。とにかく金魚が死ぬたびに時計が止まる。はじめのうちは、この現象に感動して何かわけのわからない話をしていた担任の先生も、最近は、止まった時計にいち…

ソフトクリーム

動物園を散歩していたら不思議な形の金属片を拾った。何に使うものなのかさっぱり見当がつかないが、マジックペンで番号や符丁のようなものが書き込まれているところを見ると、動物園の備品の一部だろう、と思い管理所へ届けると、若い職員が出てきて、これ…

コポコポ

受話器を取ると、コポコポと気持ちのよい音が耳に流れ込んできた。水の中で泡が弾ける音だ。どちらさんですか。コポコポコポ。何のご用ですか。コポポポコ。気がつくと背後の金魚鉢で金魚が一匹騒いでいる。いちばん体が小さくていちばん気が強いやつだ。う…

最近、飼い犬が、庭の隅の穴の中に、人間の指を集めている。「どこから集めてくるの?」「わふ?」要領を得ない。穴の中を覗くと、集めた指は、みんな爪が噛まれてボロボロだったり、ささくれだらけだったりして、それがちょっとほっとする。だって、綺麗な…

昨日の朝、裏のおばさんが森の中にスリッパを並べていた。その日の夜、おばさんがスリッパを並べていた場所に一機のUFOがあって、スリッパはなくなっていた。今日の朝、UFOがあった場所に再びスリッパが並べられていて、UFOはいなくなっていた。そして今日の…

消しゴム

ある日、近所の家の前を通りかかると、その家の小学校に上がったばかりの男の子が、玄関でうずくまっているのを見かけた。体調でも悪いのかと思い駆け寄ると、その子は手に消しゴムを持ち、それで玄関の壁を一心不乱にこすっていた。「何してるの?大丈夫?…

切符

死んだ妻の写真を眺めていたら、写真の裏が切符になっていることに気づいた。行き先は知らない駅だった。近所の駅に行き、写真を見せると、赤ら顔の駅員が「すぐに参ります」とホームまで案内してくれた。ベンチに腰掛けていると、見たことのない、空色の電…

忘れ物

電車に乗った。吊革につかまった。目の前の網棚に、ごろんとしたビニール袋が置かれていた。よく見ると、男の生首が入っていた。目が合った。しかし、生首は俺のことなど見ていなかった。どこか遠くを見ていた。電車が動き出した。生首が揺れた。スマホも本…

本棚のそばに釘が一本落ちていた。床には放られてそのままにされたらしい「シンデレラ」の絵本。本を開くと、舞踏会へ向かう途中で馬車がバラバラになり、シンデレラが泥まみれで泣いている場面で終わっていた。この釘はおそらく馬車のものだろう。シンデレ…

エッグ

頭上に天使の輪を浮かべたニワトリが、朝食を用意している母の肩にとまり、フライパンの中をじっと眺めていた。その日の朝食は、スクランブルエッグだった。ニワトリのことを考えていたら、少し残してしまった。目玉焼きか、ゆで卵だったら、全部食べられた…

味見

味見しようと菜箸でつまみあげた里芋が、つるんとすべって落ちてしまった、と思ったら、エプロンの前ポケットから子どもの手がにょきっと出てきて、里芋をつかんで再びポケットに引っ込んでいった。前ポケットをつまんで中を覗いてみるが、なぜか真っ暗で何…

大根

右手に包丁を握った瞬間、左手でおさえていた大根が汗ばんだのがわかった。わはは、覚悟せい、なんちゃって。……いや待て、これ、大根か?

おいしいもの

昨日、公園の砂場でおままごとの最中、ビー玉をなくした。今日、砂場の底からしゃっくりが聞こえてくる。ビー玉は見つからない。おいしいものだと思って、食べてしまったのだろうか。砂場にいる何かが。何せ昨日のおままごとは、とても盛り上がったから。

トンネル

「ここが噂のトンネルか」「封鎖されてるね」「ちょっと様子見てくるよ」……「どうだった?」「帰ろう。ここは近づいちゃだめだ」「どうして?」「トンネルの奥にのどちんこがあった」