超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

太陽の耳

 今日は、太陽の耳が出ている。あいかわらずの福耳だ。やわらかそうな耳たぶに触れてみたいけど、脚立はおろか、はしご車でだって届かないだろう。今日は、太陽の耳が出ている。何をきいているんだろう。風の音、波の音、鳥の声、赤ん坊の笑い声、クラクション、猫のおなら。太陽の耳が出ている日は、何だかいつもより町が騒がしくて、お祭りみたいで、ぼくははしゃいでしまう。今日は、太陽の耳が出ている。でもほんとうに太陽があの耳でききたいのは、夜の静けさなんだって、図書館の本の片隅に書かれてあった。宇宙飛行士のひとが書いた本だった。ぼくは将来、きりんの飼育係になりたいけど、太陽の耳が出ているのを見ると、宇宙飛行士になって、太陽を夜に連れていってあげる方法を見つけるのもいいかもしれないと、ちょっとだけかんがえる。