雨の夜、歩道橋の上に、雨に溶ける人が立っていた。
雨に溶ける人は、傘もささずに、車列のライトをぼーっと眺めていた。
私はいつもより静かに歩道橋の階段をのぼり、雨に溶ける人を遠くから眺めていた。
雨に溶ける人は、少しずつ雨に溶けながら、外国の歌を小さな声で歌っていた。
車のライトが歩道橋を照らすたび、雨に溶ける人の長いまつ毛が、先の方から霧のようになって雨に溶けていくのが、とても綺麗に見えた。
雨に溶ける人がすっかり雨に溶けたあと、私はゆっくりと歩道橋を渡って家に帰った。
家の玄関で傘にまとわりついた雨の雫を払う時、小さな声で外国の歌を歌った。
シャワーを浴びている時、そのことを思い出して少し恥ずかしくなった。