超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

砂と尾

 夕方の動物園で、機械仕掛けの象が、水のみ場の傍に座り込んでいる。
 どこからか飛んできた雀が、水のみ場の水を飲んでいる。
 機械仕掛けの象は水を飲まない。喉から全身が錆びていってしまうから、水は飲むなと飼育員に厳しく言われているからだ。

 機械仕掛けの象は空を見上げる。首の間接がギリギリと軋む。
 もうすぐ閉園の音楽が鳴り、飼育員がネジを巻きに来る。
 明日一日を生きるためのネジだ。

 水のみ場にいた雀がふいに飛び立ち、機械仕掛けの象の尻にとまる。
 雀は機械仕掛けの象をからかうように堅い尻をつつく。
 尾を振って追い払いたいが、あちこちに砂が詰まっていて、尾が動かせない。雀はそのことを知っている。

 雀の小さなくちばしで、機械仕掛けの象の肌は少しずつほころんでいく。
 象舎に通じる扉が開き、飼育員が現れる。
 機械仕掛けの象は彼の姿を見つめながら、彼を踏み潰すところを想像している。

 ネジを巻く音が夕方の動物園のあちこちからきこえはじめる。