超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

おやつ

「おやつよ」と出された女の子に一目惚れしてしまう。ぼくは彼女の手を取り、家を飛び出す。鬼の形相の母親が追いかけてくるのを必死に走って振り払う。郵便局の前を通り過ぎ、ガソリンスタンドの前を通り過ぎ、高架下を通り過ぎ、ぼくらは鬱蒼と茂る竹やぶの前にたどり着く。「この奥に私の家があるの」ぼくは彼女に手を取られ、竹やぶの中へ入っていく。言われた通り、奥の暗がりにちんまりした一軒家がある。彼女がぼくの手をしっかり握ったまま、玄関のドアを開ける。と、廊下の奥から彼女の母親らしき女性が現れ、彼女に言う。「あら、今日のおやつは自分で穫ってきたのね」