超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

アザ

 彼女が本棚から落ちてきた。とっさに彼女を抱きかかえる。彼女のからだのあちこちに、さまざまな文字のかたちをしたアザが残っているのに気づいた。「出てくるとき、いろいろあって」彼女は照れたように笑った。彼女がいなくなって少し軽くなった本を本棚の奥へと押しこんだ。それから彼女と手をつなぎ、朝の町へと歩き出した。アザだらけの彼女の白い肌を朝の風が撫でるたび、彼女がくすぐったそうにするのがとても愛しいと思った。