超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

きっとしあわせ

 ある朝目覚めると、左足の小指と、目覚まし時計の短針が、かけおちしていなくなっていた。テーブルの上に残された書き置きには、「きっとしあわせになります」と、たどたどしい文字で。少しさびしくなった左足に、いつもより厚い靴下をはいて、目覚まし時計の長針と秒針に「いつも通りの仕事をお願いね」と声をかけ、書き置きをそっとひきだしにしまう。ああ、なんて頼りない、身勝手なカップルだろう。どこかでどうか元気にやっていってほしいという気持ちと、どこかで自転車にでもひき潰されてしまってほしいという気持ちがごちゃごちゃに混ざって、どうにも落ち着かず、目玉焼きを焦がし、歯磨き粉のついた歯ブラシを床に落としてしまったが、誰も私をなぐさめてくれなかった。