超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

金庫

 何を入れたか忘れてしまった小さな金庫。鍵をしまった場所もダイヤル番号も忘れてしまった小さな金庫。仕方なく押入の奥へ押し込んだ後、いつの間にかなくなっていた小さな金庫。そんな金庫を最後に見た時から、もう二十年以上経つ。時折こうしてその存在を思い出すのだが、思い出すのは決まって、人肌が恋しい雨の夜なのだ。本当に、何が入っていたんだろう、あの金庫。