超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

空っぽのバス

 買い物の帰りに、空っぽのバスを見た、誰も乗っていない、空っぽのバスを見た、空っぽのバスに、夕日が満ちていた、空っぽのバスにおそらく、静寂が満ちていた、運転手の顔は、捨てられた人形のようだった、空っぽのバスが、角を曲がっていった、群れを離れる老いた象のように、空っぽのバスが、坂を下っていった、深みへ帰る孤独な鯨のように、空っぽのバスが、そして、見えなくなって、夕日のほとりの埃っぽい道の上に、私はひとり立っていた。