超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

泡と渦

 風呂場のガラス扉を開けると、上から下まで石鹸の泡にすっぽり包まれた誰かが突っ立っていた。少し驚いたが、それより急いでシャワーを浴びたかったので、構っている暇もなかった。

 それでひとまずシャワーを全開にして、そいつの泡を流すと、泡に包まれた本体も泡と一緒にどろどろ流れて、やがて黒っぽい渦になり、排水口の下へ吸い込まれていってしまった。面倒なことにならなくてよかった。

 そのあとごしごし体を洗いながら、今のは何だったのだろうと考えていたら、台所から、冷蔵庫の中に折りたたまれている恋人が、「今の誰?」と怪訝そうな声で尋ねてきたので、聞こえないふりをした。