超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

笑顔

母の墓石には、墓参りに来た人の笑顔を感知してシャッターを切るカメラが埋め込まれている。

魚の骨の収集家のおじさんが、いつも骨を貰いに行く寿司屋の奥さんを好きになってしまい、ある日そのおじさんは、一番綺麗な骨だけを持って失踪した。

追う

離婚届をくわえて走り回る飼い犬を、妻だけが追いかけていた。

香典

貧乏な家の子が香典代わりに持ってきた蛍が、娘の遺体の胸の上で光っている。

大げんか

家電量販店の性格矯正機売り場の前で、年老いた母親と中年の息子が大げんかしている。

小鳥

声を失った小鳥が、鳥かごの中から、主人の机の上にある羽根ペンをじっと見つめている。

ただいま

帰宅して「ただいま」と言ったが反応が無いので、骨壷の蓋を開けて中にもう一度「ただいま」と言う。

母の遺書に「蝶に生まれ変わります」と書かれていたので、もう庭に花は植えない。

誘蛾灯

誘蛾灯の掃除をしていたら、蛾たちの死骸の中に一つ、折り紙で作られた蝶が入っていた。

雨が降り続く中、軒下のてるてる坊主の横に、千羽鶴が吊されている。

夏祭り

その少年は毎年、町内の夏祭りの時期に、おみこしが刑務所の傍を通るか確認しに来る。

その刑務所の軒下の鳥の巣は、ある献身的な女囚の髪の毛で作られている。

草花

雨水や中庭の草花を集めて、死刑囚が蘇生薬を作ろうとしている。

点滅

自室の裸電球の点滅を見た老医師が、町の電柱に精神安定剤を注射しに出かける。

ぼろぼろ

ぼろぼろのお婆さんがコンビニで、三角形のおにぎりを手に取り、丸い形に握り直そうとして、店員に止められていた。

自販機

子どもの死体を背負った老婆が、天使の自販機の前で小銭を数えている。

地球滅亡の日の朝、靴下の穴に気づき、しばらくぼんやりしていた。

ねむい

額に「ねむい」と書いた紙を貼っているおじさんが、電車で眠っている。

飼育委員

小学校で飼育委員だった少年が、卒業の日、飼育小屋に火をつけた。

煙草

段ボールハウスの内壁に書かれた「禁煙」の文字の前で、ホームレスが木の枝を煙草大に折っている。

中年のスーツの男が、快晴の青空の下、公衆電話で誰かに「こっちも雨が降ってるよ」と言っている。

追跡

息子が死んだ時に発行された追跡番号で、息子の魂を追跡したら、あの世に行く前におもちゃ屋に寄っていた。

今年も誕生日に、油性ペン片手に墓地に行ったが、とうとう僕の身長は父の墓石を超えてしまった。

扇風機の葬式の日は、風が強かった。

交換

太陽を交換してくれた巨人が、指先を湖に浸して、そっと火傷を治している。

じゃんけん

異星から来た、指が千本ある転校生が、一緒に遊ぶ時、じゃんけんに混ざらない。

千羽鶴

ゴミ捨て場に転がっていた千羽鶴の数を数えていたホームレスが、新聞紙で追加の鶴を折り始めた。

ニンジン

ニンジンが食べられない男の子が、スーパーでニンジンを万引きして捕まった。

トマト

いつも八百屋の野菜に口紅のキスマークをつけて逃げていくその女は、トマトの赤さを憎んでいる。

タマネギ

理科の授業で涙を使う日、学校に母の遺影を持っていったが、それが急に恥ずかしくなってしまい、結局隣の席の子にタマネギを借りた。