2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧
異星から来た、指が千本ある転校生が、一緒に遊ぶ時、じゃんけんに混ざらない。
ゴミ捨て場に転がっていた千羽鶴の数を数えていたホームレスが、新聞紙で追加の鶴を折り始めた。
物置の奥で、もうしばらく使っていないお母さん交換機が錆びている。
墓地を歩いた後の靴底の溝に小さな骨片が挟まっている。
ニンジンが食べられない男の子が、スーパーでニンジンを万引きして捕まった。
いつも八百屋の野菜に口紅のキスマークをつけて逃げていくその女は、トマトの赤さを憎んでいる。
理科の授業で涙を使う日、学校に母の遺影を持っていったが、それが急に恥ずかしくなってしまい、結局隣の席の子にタマネギを借りた。
数学者の妻が、「∞」の記号を載せたベビーカーを押して、保育園の扉を叩いた。
保健所が立入検査をしたところ、その養豚場の豚には、影が無かった。
去年、花粉の時期が終わると同時に旅に出た鼻毛たちが、今年、ついに、俺の鼻に戻ってくる。
我々は彼らの教材用の星で生きているので、何度生まれ変わっても人生が楽しくて仕方ないようになっている。
もうずっと誰にも利用されていない自販機が、夜中、ため息とともに熱い缶コーヒーを吐き出す。
金魚すくいの屋台の店主が、私に金魚を手渡しながら、「死んだらまた来てね」と言ったが、私のことなのか金魚のことなのかわからない。
古本屋で詩集を手に取ったらページの間から蝶が出てきて飛んでいき、そのことを店主の婆さんに言ったら、半額になった。
点滴袋にお猿さんのシールが貼られている少女と、点滴袋にバナナのシールが貼られている少年が、小児病棟の廊下ですれ違う。
商品の購入時、愛情でも支払えるコンビニのレジの傍に、みすぼらしい子どもたちが寄せ集められている。
刑務所の塀の前で、タンポポの綿毛を吹いているあの少年は、どうやら塀の中に綿毛を届けたいようだ。
夕暮れの河原で、少年が一人、「おかあさん」と書いた石と、「おとうさん」と書いた石をぶつけ合って、どちらが割れるか試している。
その少年は、お母さんが入院している病院の電話番号を覚えているところが自分の長所だ、と言っている。
席替えしてから、彼女の尻尾の先は左に曲がるようになった。
散歩中、霊柩車を見かけた中年男が、慌ててスマホを取り出し、実家に電話をかけ、「母ちゃん、親指!」と怒鳴り始める。
近所のペットショップで売れ残っている猫に、どうしても将棋で勝てない。
夏祭りの、お面屋の店主が、客がいない時、ずっと、自身の顔をペタペタ触っている。
赤ん坊が口に含もうとしていた人工衛星を、巨大な手が優しく取り上げた。
履歴書の「前世」の欄に、正直に「ゴキブリ」と書いて、男は殺虫剤メーカーの面接に赴いた。
へその緒のクレーンゲームの筐体に赤ん坊の写真がびっしり貼られている。
誰も来ない美術館に立つ警備員の口元に、絵の具が付いている。
秋の道に落ちている枯れ葉の一枚一枚に油性マジックで「踏まないで」と書こうとしている老人の手の中で、枯れ葉はバラバラに崩れていく。
その川はここ数百年、自身の中を流れる石を、人間の心臓の形に削ることを趣味としている。
ゴミ捨て場のふれあいコーナーで、子どもたちが腐肉の塊を撫でている。