超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

どのくらい

恋人に「どのくらい俺が好き?」と訊くと、恋人はにっこり笑って、手元の紙に「0.0000000000……」と書き始め、それがいつまで経っても終わらない

うろうろ

母の人魂が家の周りをうろうろ飛んでいる日は、家に公共料金の請求が来ている

出会い

寺を燃やしていた父と、教会を燃やしていた母は、神社で出会った

にらめっこ

独房で一人、頭の中で、俺が殺した男とにらめっこで勝負するが、あの死に顔には勝てず、いつも笑ってしまう

来るべき月の裁判に向け、法廷画家が兎の絵を練習している

信号は赤が一番優しいんだよ、と信号機を作る工場をクビになった友人が言う

夜の森

人形使いが眠ったのを確かめると、操り人形は立ち上がり、夜の森へ虫を食いに出かけた

夕日

ドラッグストアに行ったら、「夕日を見ると死にたくなる人へ」と書かれた棚に、五十種類近くの薬が並べられている

標識

一時停止の標識のポールに貼られた「じてんしゃもとまれ」「神様ハ好キニシロ」のステッカー

心臓

昔理科室から盗んだ人体模型の心臓を、母校に返しに行く途中、心臓発作で倒れる

その山の猿は将棋の勝負でボスを決めていることがわかり、政府によって全て駆除された

顔に子ども靴の絵を描いた男が、自分の口の中に子どもの足が突っ込まれるのを夢見て、地面に寝転んでいる

赤い

この星で一番赤いのはお前だよ、と金魚屋の親爺に囁かれた金魚が、ますます赤くなった

風習

いつの頃からか、影箱と声酒の風習はなくなり、骨壺だけが残った

エラー

「エラーです、エラーです」と繰り返しながら、その機械人形はラブホテルの一室で、人形製作者の男の前で、服を脱いでいった

書類

去年の事件を受けて、今年から配布されている、金魚の魂に関する書類を、金魚すくいの屋台の親爺が、夏の日差しの下でじっと読んでいる

赤いドレス

私が運転していた救急車の前に、赤いドレスの女が飛び出してきて、路上で狂ったように踊り始め、それ以上救急車を進めることができずにいたら、助手席の先輩が「大丈夫だから、轢け、轢け!」と叫ぶ

ありがとう

鏡を叩き割った瞬間、ひび割れた鏡の中の私が、「ありがとう」と笑った

地球上に残された最後の花と、最後の蝶が出会うまで、まだしばらく時間がかかりそうだ、と判断した神様は、台所で酒の準備を始めた

遺品整理

ホームレスの爺さんが死に、仲間のホームレスたちが遺品整理をした結果、爺さんがいつも大事にしていた指揮棒は、何の役にも立ちそうにない、という理由で真っ先に捨てられることになった

メモ

夜中の電話ボックスで、「090-雲雲犬歯-月鑿鹿女」と書かれたメモを見つける

徘徊

全身に世界中の言語で「自殺はやめよう」というタトゥーをびっしり入れている男が、夜の街を徘徊している

炊飯器

米を研ぐ音を聞いて、炊飯器の蓋がひとりでに開いたら、それは炊飯器の求愛行動です

教会

化学者の男が、「はだかのおんな」と呟きながら、夜の教会の床にひざまずいて、何かの液体が入った試験管を振り続けている

母の遺骨が入った骨壺を見て、まだ何かを焼き足りていないのじゃないかという考えがふいに浮かび、結果的に自宅を全焼させてしまった

鏡で自分の姿を見た蝶が、しばらく思案した後、自ら蜘蛛の巣へ飛び込んでいった

たくさんの蛇を泣かせてきた詩人と、たくさんの蛇を笑わせてきた芸人が、酒場で出会い、ある一匹の大蛇を殺すことで話が一致した

視線

目玉酒を注文したが、バーテンダーが持ってきた瓶の中の目玉が、私から視線をそらしたので、残念ながら目玉酒にはありつけなかった

宇宙の果てに巣を張って、その蜘蛛は何かを待ち続けている

窪み

冷蔵庫の卵を置く窪みに、女は、夜空から盗んだ金星を隠していた