超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

夜道

夏の夜道を自転車で走っていたら、口の中に何かが飛び込んできたので、虫かと思って吐き出すと、それは金平糖だった。

小骨

「小骨に注意してお召し上がりください」と書かれているメロンパン。

土踏まず

今日、何となく自分の土踏まずを見たら、「土踏めます」という言葉とともに何かのサイトのURLが書かれていることに気づいた。

温めますか

「お弁当、温めますか?」に「お願いします」と答えると、店員はお弁当をスピーカーの前に置き、一枚のピアノ曲のレコードに針を落とした。

呼び出しボタン

ファミレスで肉料理を注文し続ける男の傍らの呼び出しボタンに、人魚のうろこがくっついている。

指輪

電車で目の前の席に座っているおばちゃんの、薬指の指輪に、宝石ではなく一本の歯がはめられていて、その歯に青海苔がくっついている。

ご機嫌

涙目でどこかに電話をかける飼い主の周りを、口にUFOをくわえた犬がご機嫌で歩き回っている。

ご自由に

病院の前に置かれた「ご自由にお持ちください」の脳味噌を、一つ一つ吟味している受験生。

古本屋

そういえば明日はあの古本屋の店主のババアが一日喪服を着ていて、漫画が安くなる日だ。

賽銭箱

ひと気のない神社の賽銭箱に小銭を入れて、健康を願い家に帰ると、留守電に「あと百円」というメッセージが残っている。

月部が飼っている兎が部室から逃げて、夜空が騒がしくなってきた。

夏が終わるから、そろそろ入道雲カバーを出しておかねばならない。

季節

季節を司る神様が、役所に四枚の死亡届を取りに来た。

散歩

首輪とリードを付けた尿瓶を連れて歩いていたお爺さんが、私の犬がおしっこをするのをじっと見つめている。

ゴミ箱

図書館の裏に設置されている「詩」と書かれたゴミ箱を、夜中、眠れないホームレスが漁っている。

床屋

床屋の親爺が念仏を唱え始めると、私の頭のくせ毛たちがのたうち回り始め、やがて静かになって、全て直毛になった。

えくぼ

恋人のえくぼに指を突っ込んだら、そのまま吸い込まれてしまい、今は恋人の笑い声だけが響く真っ暗な空間を漂っている。

ブログ

死んだ母が生前書いていたブログを読み終え、パソコンの電源を落とそうとしたら、画面に、「あなたのお母さまがシャットダウンを妨げています」との警告が表示された。

自動運転車

自動運転車が、廃車置場の前を通りかかった時、少しスピードを落とした。

履歴書

名前も住所も職歴も何も書かれていない履歴書が私宛に届き、証明写真の欄に、カキフライの断面を写した写真が貼られている。

観覧車

全ゴンドラに墓石を乗せた観覧車が、墓石の重みでゆっくりと回りながら倒壊していく。

小鳥

つけっぱなしにしていたパソコンのキーボードを、飼っている小鳥がつついていて、ふと画面を見ると、「やきとり」と表示されている。

カマキリ

前脚に数珠をはめているカマキリがバッタを食う音が草むらに響いている。

ポイントカード

ドラッグストアのレジで初対面の女性店員に「ポイントカードお作りしますか?」と訊かれたので、「あ、結構です」と答えると、「前世でもそうでしたね」と悲しそうな顔をされた。

お父さんが死ぬ直前に完成させた、シュークリームで動く車が、車庫の隅で、甘い匂いをさせながら錆びていく。

レフェリー

レフェリーの10カウントとともに、再び夏空にもこもこと入道雲が立ち上がっていく。

あの夏

「いくら持ってんだ?」と蝉が訊くので、ポケットの中から十円玉を取り出して見せると、蝉はため息をついて、二十円分鳴いてくれた、あの夏。

保温

今日は、太陽が間違って、私の家の炊飯器の中に沈んでしまったので、とりあえず明日の朝まで保温しておく。

レバー

その家の便所の水洗レバーは、「大・小」ではなく「善・悪」に分かれていた。

豚の貯金箱の演説は、はじめ失笑で迎えられたが、やがて客席の銀行家たちの万雷の拍手を浴びることとなった。