2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧
九百九十九歳で亡くなった祖母の最期の言葉は、「お金が欲しかった」だった。
公園の木の女の首吊り死体を取り囲む幼稚園児たち。付き添いの先生が言う。「何か訊いてみたいことは?」幼稚園児たちが言う。「付き合ってた人はいますかー?」死体が、微かに揺れた。
給料三ヶ月分をはたいて、今夜は夜を一時間延ばしてもらったの。とりあえず、そこに座って。
あの、すいません、この人を胴上げしたいので、点滴の針とか、呼吸器とか、いったん外してもらってもいいですか?
「う~、さぶさぶ、おばあちゃんただいま」(と、祖母の骨の入った骨壺に手をかざす少女)「あ~、あったか~い」
朝起きたら、私の腕の鱗と鱗の間に、義母の字で「ごめんなさい」のメモが挟まれていた。
おい!触手の先は湯の中に入れねぇのがマナーだろうが!
外から独房の窓を突き破って現れた巨大なピンセットに、死刑囚がつまみ去られた。
夫が寝言で「再設定してください」と言った。ちょっと気になったが、眠かったので、放っておいた。次の朝、夫が私に敬語で話しかけてきて、一人称が「俺」から「私」になっている。
洗いたての影が夕日で伸びていくのを見るのは、いつだって気持ちが良い。
泣き疲れて寝てしまった私の左手の薬指に、糸を一本巻いて、彼は……蜘蛛は、部屋を出て行った。
お母さんが死んだ時に流した涙、冷凍してあるんだけど、舐める?
夜空の星一個で観られるその映画には、女の裸も映っていると聞き、ぼくたちはうんと高い梯子をこしらえた。
外国の街角、段ボール箱の中の捨て子を背景にした女の自撮り写真と、「#私の子じゃありません」のハッシュタグ。
私が運転するタクシーに、深夜、ダッチワイフと一緒に乗ってきた男の人。ミラーでちらちら様子を窺っていたら、その男の人が突然「私は勃たないんですよ」と話し始めた。
「尋ね人」その文字の下の××君の写真は、あの夏、ぼくが彼にあげたクワガタを手に持って笑っている写真。
俺の死刑執行日に、人類全体の大型アップデートが行われるそうだ。
クラスの皆でお金を出し合って買ったクラスメートだから、先生にはネットじゃなくて子ども屋さんに直接行って選んでほしかったです。
右手が勝ったら死ぬ、左手が勝ったら死ぬのをやめる、と決めて、一人でじゃんけんを始めたが、ずーっとあいこが続いている。いつまでも。いつまでも。
明け方、部屋の隅で眠っていた飼い犬が、「私、犬かもしれない……」と寝言を言った。
漫画のアンケートはがきに「次巻も楽しみにしています」と書いて投函し、首を吊る。
年老いた辞書のおむつを取り替えようとしたら、黄ばんだ「絆」の字がべっとりついていた。
その国にはドーナツの穴に関する法律が百二十ある。
駅前で拡声器を使って、「ぼくを忘れないでください!」と叫んでいた、知らないおじさんが、上空に現れたUFOにゆっくり吸い上げられていく。
ダッチワイフを写した遺影が四枚飾られている部屋で、今五体目のダッチワイフに空気を入れている。
え~?ファスナーのついてない魚なんて、私、さばき方わからないよ。
「たちゅけて~、ママをたちゅけて~」とつぶやきながら、ベビーカーをどんどん車道の方へ押していく女。
「ママの結婚指輪に彫られてる、この「4」って数字、何?」「パパの人生の中で第4位の女なのよ、私」
初夏。姉が庭に出て、陽の光を浴びながらぼーっと突っ立っていた。「何してんの?」「練習」「何の?」「んー……」そんなことが数回あった後のある夏の日、いつも姉が立っていた場所に姉はおらず、一本の向日葵が咲いている。
お肉屋さんのショーケースに、「ブタ(天国)」と「ブタ(地獄)」。