超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

お空

「おばあちゃんはお空の上に行った」と教えてから、息子がだっこではなく肩車をねだるようになった。

明日

リストカットした直後、明日が姉の結婚式だと思い出す。

この間のおちんちんの形の雲が批判されたので、神様はしばらく禁酒することにしたそうです。

届かない

ぼくには高くて届かない冷蔵庫の冷凍室の扉を開け、中を覗いたお父さんが、「やっぱりママは可愛いなぁ」とつぶやく。

この間買い替えた鏡が、またじゅくじゅくしてきた。私を映した鏡は、全部こうして腐ってしまうの。

これ

これ?へその緒。え?彼氏の。自分の持ち歩いてたら馬鹿みたいじゃん。え?

5番のスイッチ

寝る前に、5番のスイッチをオンにする。スピーカーから父のいびきが聞こえてくる。布団に潜る。まったく、うるさくて眠れないよ。

言ってごらん

「死にたい、って言ってごらん。死にたい、って。しーにーたーい。ほら」と、猫に話しかけているおばさん。

福耳

ほとんど同じ子が二人いたので、福耳の方の子を引き取って養子にした。

ケチャップで「酒」と書いたオムライスを、父が背中を丸めて食っている。

ゴミ捨て場に腕が二本捨てられている。まだちょっと動いている。あれ、おにぎりを作る動きだから、お母さんの腕かな?

カップラーメン

お湯を入れたカップラーメンを仏壇の前に置いておくと、三分後、母の位牌がひとりでに倒れて、「できたよ」と教えてくれる。

蝿叩き

右手に星の詰まった袋、左手に蝿叩きを持って、ニコニコしながら孫の待つ家に帰る老婆。そして、少し星の減った夏の夜空。

ママ

亡くなった兄の机の、鍵のついたひきだしに入っていた、「ママ」と書かれた瓶と、瓶の中の、何か、甘い匂いのする液体。

流れ星

流れ星を夜空に投げるバイトの時、いつもは使わない軍手をはめないと掴めないやつが一つあった。あれは願いを叶えそうだ。

泣いてる

夕暮れ、公園のベンチで、若い女の膝に突っ伏して、中年女が震えていた。若い女は「今お母さん泣いてる。私は泣いてない」とスマホで話していた。

まぶた

棺桶の中の祖母の遺体のまぶたにセロテープが貼られていて、むりやり目が閉じられていたが、今日葬儀の時に見たらガムテープになっていた。

缶詰

脳の缶詰を食ったら甘いところがあった。恋の記憶だ。珍しい。

幽霊

レンタルDVD店のアダルトコーナーで、あいつの幽霊を見た。俺と目が合うと、ふっと消えた。あいつが見ていた棚のラインナップを見てみる。……あっちで、好みが変わったのかな?

メイク

今日は、メイクで、私のお母さんの顔を、私の本当のお母さんの顔にしていきたいと思いまーす。

マンホール

母と散歩中、マンホールの下から、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。恐ろしくなって母を見ると、母は微笑んで、「あなたにもああいう頃があったのよ」

五時

新聞配達をしていたら、路上に、下半身裸のおじさんがいて、「今何時?」と訊かれた。「朝の五時です」するとおじさんはおもむろにズボンを履き始めた。

苺ジャム

影の、胸の、真ん中を、ハート形に、切り取って、苺ジャムを、詰める。可愛い。けど、蟻が。

シール

実家の物置に、妹が使っていた傘。柄に貼られたシールを見て、ああ、あいつ、人間だった頃こんな名前だったな、と思う。

明日

明日は楽しみにしている運動会なのに、テレビのどのチャンネルも「明日の天気……ナイショ」

知恵の輪

息子の墓前に供えた知恵の輪が、数週間後に墓参りに行ったら、解かれていた。

夏、窓の外の雷を眺めながら、仰向けに寝っ転がっていたら、飼い犬がとぼとぼとやってきて、ぼくのおへそを前脚でそっと隠した。

意味わかんない

「意味わかんない、意味わかんない……」とつぶやきながら、墓石の前で坊さんが頭を抱えてうずくまっている。

アレ

「アレ見に行こうぜ」金曜日の放課後、あいつに誘われて、コインランドリーへ。毎週金曜日の夕方に、一番大きな乾燥機の中で回っている青いブラジャー。それを二人でしばらく眺めていたら、あいつがとつぜん、「俺、転校するんだ」とつぶやいた。

笑顔

「おかえりなさい」と久しぶりに笑顔で迎えてくれた妻だが、触角をさかんに動かしているので、やっぱりまだ浮気を疑っているようだ。