超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

影絵

夜道。塀に映る影絵の狐に、かれこれ二十分あとを尾けられている。

貧乏

ごめんね……うちが貧乏なせいで……肩車に非対応のお父さんしか買えないで……。

鼻毛

鏡を見たら鼻毛が飛び出ていたので抜こうとしてよく見ると、その鼻毛の先が首吊り縄の形に編まれている。

道端の、段ボール箱の中に捨てられていた、まだ動いている真っ赤な心臓に、「ごめんなぁ、ごめんなぁ」と泣きながら、駆け寄っていく男。男の胸には、ぽっかりと穴。

会社の昼休み、耳にイヤホンをつけて何かを聴きながら空を見ている部長の肩を叩く。「何を聴いているんですか?」「娘の歯磨きの音……」

俺、霊柩車見るたびに、百円ずつ貯金箱に入れることにしててさ、見ろよ、もう四万円貯まったんだぜ、へへ。

勉強

海で死ぬつもりだったが、わけあって、今は蛸語の通訳を目指して勉強している。

今日は、蟻の修学旅行生たちが我が家の台所に来ているので、踏まないように注意しなければならない。今年も、あの砂糖壷は大人気だ。

未来

未来が明るくなりそうだったから、慌てて地球の電源切ったよ。冗談じゃねぇ。

紙袋

湿った紙袋を持ったおじいさんに、「わしの金玉買うてくれ」と、夜道で話しかけられる。

年賀状

毎年、小学校の同級生から、「来年は私のおっぱい見せてあげるね」と書かれた年賀状が届くが、見せてもらったことはないし、だいいち彼女は卒業前に死んだのじゃなかったか。

耳工場に社会科見学に行ったら、耳たぶの素のふわふわした塊を触らせてもらって、それがものすごく気持ちよかった。

たこ焼き

最初の一本目の電柱がたてられた頃の月を「たこ焼き」と呼んでいたのが、いまや懐かしい。

バイオリンを構えて路上を歩いているお兄さんが、何メートルかごとに立ち止まり、壁や電柱に向かって「ラ」の音を出す。縄張りをマーキングしているらしい。

木の枝

クラスのみんなで雪だるまを作っている時、転校生の××君が、「これ、しっぽ……」と言って持ってきた木の枝を、担任の先生がそっと折っているのを見てしまった。

缶詰

「犯人の肉」と書かれた缶詰を買っていくのは、みんな正義感の強い人たちばかりです。

餌に毒を混ぜて、家を出て、猫が死ぬ頃に、帰ることにする。一人暮らしだから、猫が死んだことを教えてくれる人がいなくて、悲しい。

進化

今度は猿から進化しやがった。また賭けに負けちまった。

電話番号

公衆便所に書かれていた「誰にでもやらせる女」の電話番号に電話をかけてみたら、お婆さんが出て、「息子は死にました!」と叫ぶなりガチャリと電話が切れた。

物質

叔父の葬儀に出たら、叔母が、参列者全員の頬に何かを塗った後、「それは本物の涙に反応する物質ですからね!」と金切り声をあげた。

文字

ねぇ、ママ。私の影の、赤い「見本」の文字、どうしたら消えるの?

トマト

「美味しいトマトが生るといいわねぇ」と笑いながら、母が、寝たきりの祖母のへそにじょうろで水をかけている。

葉書

表に自分の家の住所を、裏に「地球を守れ」とだけ書いた葉書を、一日一枚ポストに入れ続けている。

お仕事

お子様をおんぶしていらっしゃったり、ベビーカーを押していらっしゃる親御さんたちに、「その子、死んでいませんか?」とお声がけするお仕事をしておりました。

動物病院を狙って放火を繰り返していた無職の男が、ペット霊園で泣いているところを発見され、逮捕されました。

妊娠していることがわかったので、今日から、夫婦でそれぞれ「お父さん液」と「お母さん液」を毎日飲むことにする。……苦いぜ。

カーラジオ

母の死体を車のトランクに詰め、山に捨てに行く道中、カーラジオをつけるが、どの局も母親が死んだとか死にそうとかそんなメールばかり読んでいて気が滅入る。

7巻

「豚が殺される①」「豚が殺される②」「豚が殺される③」「豚が殺される④」「豚が殺される⑤」「豚が殺される⑥」「豚が殺される⑧」「豚が殺される⑨」「豚が殺される⑩」あれ、7巻がない。ああ、あいつに貸したんだっけ。7巻はあいつの豚だったから。

影の定期点検は面倒だけれど、点検室に設置されている、人口の夕日の光は、好きだ。

カツラ

父が失踪した後、父が日ごろから「撤去しろこんなもの」と文句を言っていたお地蔵様の頭に、父がかぶっていたカツラがかぶせられているのが見つかった。