2020-02-08 いわくつき クミコからきいた話 いわくつきだとは聞いていたので、廊下に子どもの足跡が現れたこと自体は受け入れられた。問題は、その足跡が、廊下を通って寝室に入ってきて、最終的に私の口元で途絶えていることだ。
2020-02-07 水と声 トモコからきいた話 バイト先のカラオケ店に、蛇口の客がやってきた。台所からシャワー、庭にあるものから洗濯機用のものまで、様々な種類の蛇口の団体客だった。普段水ばかり出しているから、たまには声を出したいということらしかった。案内した部屋へと向かっていくシャワーの後ろ姿は色っぽかった。ドリンクを部屋へ運んでいった時、一番大きな蛇口が「川の流れのように」を歌っていた。何か象徴的な意味があるのだろうか。思わずそんなことを考えていたら、たこ焼きを温めすぎていて、先輩に叱られた。
2020-02-06 くちびる マリコからきいた話 放課後、学校の廊下の角を曲がると、上履きのかかとを踏んで歩く足が見えたので、「上履きのかかとは踏むな」と注意しながらよく見ると、そいつは足首しかなかった。足首はこちらを振り返り、不満そうにつま先でトントン、と床を蹴った後、階段を下りてどこかへ行ってしまった。くちびるをとがらせた生意気そうな顔が見えた気がしたが、そこにはただ夕闇が広がっているだけだった。
2020-02-05 おやつ マリコからきいた話 「戸棚におやつが入っています」という書き置きにあった戸棚を開けると、そこには蝶の標本がぽつんと置かれていて、「私は本当はこの家の子じゃないのかもしれない」という思いがますます強くなっていく。