超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

虹とカメラ

 虹が出た。
 若い男がロープを持って、自転車で駆けていった。
 虹に縄をかけて、首を吊るのだろう。
 最近、若い人の間で、そういうのが流行っているのだ。
 虹が出れば、そこで誰かが首を吊る。
 誰かが虹で首を吊れば、それを誰かが写真に撮る。
 そういうのが流行っているのだ。
 そういう写真をコレクションしている人が、去年の夏、××坂の喫茶店で個展を開いた。
 私も妹とそこを訪れた。
 私には何だか、みんな同じ顔をしているように見えたが、妹は一人の男の写真の前で立ち止まり、「兄さんにそっくり」と笑っていた。
 土産物のコーナーに行くと、絵葉書が売られていた。
 妹が私にそっくりな男のものを探したけれど、なかった。
 だから帰りにでんき屋に寄って、妹にカメラを買った。