超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

海と夕日

 夕暮れの海を見ていたら、夕陽の中に、水面に突っ伏して泣いている少女を見つけた。何とかしてやらなきゃと思い、声をかけようとしたのだが、しかしあんなに遠くにいるんじゃ、いくら大声で叫んでも無駄だろうと思った。こちらに気づいてほしくて、足元の貝殻を少女に向かって投げてみた。しかし、貝殻は夕陽のずっと手前に落ちて、波に巻き込まれて消えてしまった。せめて楽しい歌でも覚えておけばよかった。歌ならば風が遠くまで運んでくれるだろう。しかしそんなものに用はないという風に少女の肩は揺れている。