超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 注文を受けて生け簀から取り出したカニが、「最後に親と話させてくれ」というので、店の電話を貸してやった。物陰からそっと聞き耳を立てていると、そいつはカニの言葉でしきりに「大丈夫」と繰り返していた。そいつを食った客は「旨い旨い」と喜んでくれていたが、受話器にくっついた泡を拭き取る時、俺はとても寂しい気持ちになった。