超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

エレベーター

 朝目覚めたら、ゴウン、ゴウン、と大きな音が聞こえてきたので、窓を開けると、分厚い雲を突き破り、巨大なエレベーターが降りてくるのが見えた。カレンダーを見る。もうそんな時節か。あれは春を詰めたエレベーターだ。降り立つ予定の原っぱに行くと、もうすでに黒山の人だかり。威厳たっぷりに降りてきたエレベーターが地上に着く。チィィィン、と優雅なベルが鳴り、巨大な扉がゆっくり開き、春が一気に飛び出してくる。花、虫、鳥、風、獣、雲、川、陽射し、笑い声。エレベーターの管理人が傍でにこにこ笑っている。品のいいおじいさん。はしゃぐ犬をはしゃぐに任せ、つくしを摘み、花の香りを嗅ぐ。今年も春が来たのだ。エレベーターとともに。