超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

よろこぶ

 となりのおじさんが犬をさんぽさせていた。よく晴れた夕方のことだった。アスファルトにのびるおじさんの影は、犬のかたちをしていた。犬の影はおじさんのかたちをしていた。交換したんですか、と尋ねると、たまにはね、とおじさんはぶっきらぼうに答えたが、おじさんからのびる犬の影がしっぽをぶんぶん振っているのを私は見逃さなかった。犬の方はどうかな。犬からのびるおじさんの影を見ると、両腕をぐるぐる回しながらぴょんぴょんジャンプしていた。気づいたおじさんが照れくさそうな顔で、犬の頭を軽く叩いた。いつも不愛想なおじさんなのに、意外とダイナミックな喜び方をするんだなと思った。