超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

僧侶

首から上がテレビの僧侶が頭頂部についたでっかいアンテナをぶらぶら揺らしながら悟りを得ようとテレビタレントたちの墓をめぐっている

一週間

七人で一つの心臓を貸し合って使っているのでぼくらはそれぞれ一週間に一日しか生きられない

赤ん坊

毎週火曜日にゴミ捨て場に捨てられている赤ん坊が紙粘土で作られた人形であることを毎回つま先でつついて確かめている

インク

日光にしか反応しないインクで「大嫌い」と書き、月光にしか反応しないインクで「愛してる」と書いた手紙を彼に渡して逃げる

監視カメラ

その妊婦は子宮の中に監視カメラを取り付ける手術をした

菓子パン

その婆さんは菓子パンを万引きし、その菓子パンがあった場所に小さな木彫りの仏像を置いて逃げていった

似顔絵屋

「どこ描いてもらおっかな~」と、似顔絵屋の前でくるくる回る地球

脳天

ぼけたじいちゃんの脳天に、ちっちゃな宇宙飛行士たちが旗を立てていた

味噌汁

味噌汁のいい匂いを追っていくと、お母さんの巣にたどり着いたので、引きずり込まれて家族にされる前に、慌てて逃げた

殺虫剤

その七匹の蝿のために、新しい殺虫剤が発明された

休部

うちの学校の天使部が堕天使を出して休部になった

警備員

何百冊ものスケッチブックに、ひたすら様々な場所の警備員の絵だけを描いてきた老人が死に、遺族によって個展が開かれたが、その個展には警備員は一人もつかなかった

最近の

最近の神様は雲に服着せるのか

母が、かつて父が飛び降りた鉄塔が寒いだろうと、鉄塔の形のセーターを編んでいる、冬

舞台

そして舞台上の卵にとうとう蝿がたかり始めて、客席の我々はようやく席を立った

ややこしい

トビウオの天使の羽がややこしい

カルテに「影ナシ」の走り書き

だるさ

今朝も目覚めると、パンツに誰かの遺書が挟まっていて、お腹がだるい

風邪

百体の雪だるまを取り調べているうちに、刑事は風邪をひいてしまった

ぬいぐるみ

朝、墓地の一番奥の墓石の上に腰かけていたウサギのぬいぐるみが、夜にはクマのぬいぐるみになっていた

上司の飼っている蛇になつかれたため、父は出世コースを外れた

砂浜に流れ着いた瓶の中に、新聞から切り抜かれた、ぼくの死亡記事が入っていた

手術

手術が終わる頃には、手術室の床は薔薇の花びらで埋め尽くされていた

蛇口

貯水池の見ている海の夢が、蛇口から漏れ続けている

小説家

でっかいハムスターの頬袋の中でなら仕事ができると小説家が言うので、ペットショップに電話をかけまくっている編集者

ピアス

ぐったり疲れて帰宅すると、今朝私が引き上げた水死体がつけていたピアスを、女房がつけている

臭い

私が庭で家族写真を燃やす臭いを嗅ぎつけて、近所の爺婆が集まってきた

メリーゴーラウンド

跨ったメリーゴーラウンドの馬の頭部が割れていて、隙間からピンク色の脳が見えている

天から伸びているサラリーマンの管から、サラリーマンの欠片がちょっとずつ、ぼと、ぼと、と朝のオフィス街に落ちていくが、このスピードでは始業時間までに間に合いそうにない

財布

拾った財布には赤ん坊を買ったことが記されたレシートだけが入っていた