超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

わくわく

「今度の実験も、わくわくしますね」と、研究員が所長に話しかけながら、手慣れた手つきで作り上げていく、三百本目の首吊り縄。

検索履歴

駆除してもらった蜂の巣の中、女王蜂の部屋のパソコンの検索履歴に「蜂 ヒト 恋愛 映画」の文字。

自宅で死にたいと言って病院から家に帰ってきた夫が、布団の中から手を伸ばし、私の靴下の穴に指を突っ込んで、穴を拡げてニヤニヤ笑っている。

かご

放置自転車のかごにねじこまれている、丸めたウェディングドレス。

ひざ枕

夕焼けに染まる教室で、ぼくにひざ枕されている担任の先生が、「お兄ちゃん死なせてごめんね」とつぶやく。

たわし

「ちょっと、おばあちゃん。これ、鏡に映ってるおばあちゃんだから、たわしで擦っても消えないよ」「消えるよぉ」「消えないってば」「消えるよぉ。私のお兄ちゃんはこうして戦争に行かなかったんだからぁ」

風鈴

同じ房の「風鈴おじさん」が窓に近づき、わずかな隙間風に反応して、「チリンチリーン」と言い始めた。今年も刑務所の外に夏がやってきたのだ。

高架下のコンクリートの壁にスプレーで書かれた、「おっぱいが出ない」という落書き。

ものの

恋人を食べたライオンの糞を一塊持ち帰ってはきたものの。