2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧
その海域で穫れる魚は、だいたいのものが、腹やひれに、口紅の跡が残されている。たまに何も付いていないのがあるが、そういう魚は決まって子持ちだ。
葬儀場の真上でもう何か月もぴくりとも動かない一塊の雲に、最近とうとう蝿の群れがたかりはじめた。
「××おばあちゃんの遺品福袋」を買ったら、××おばあちゃんが十代の頃の日記が入っていた。しばらく退屈しなさそう。
朝、台所に行ったら、バクが、昨夜ぼくが見た夢をレンジで温めていた。どうしてすぐに食べなかったんだろう。
仏間には、曾祖父の遺影だけ、壁に直接画鋲で留められている。額縁に入れると、暴れた時に危ないんだそうだ。
ある夏の夜、何かの音で目が覚めると、隣で寝ていたはずの女房の姿がなく、網戸にとまった女房と同じ目をした蝉が、「抱ケ抱ケ抱ケ抱ケ」と鳴いている。
町外れの肉屋で買った肉の入った袋を、人魂がずっと追いかけてくる。
古本屋でその詩集を買ってから、部屋で虫の脚を見かけることが多くなり、見かけるたびに、詩集のページが少しずつ増えている気がする。
段ボールで作った友だちより、牛乳パックで作った友だちの方が優しい気がする。
「あなたの指なら届きそうね」道を歩いていたら、知らない女に声をかけられた。「何ですか?」女は何も答えず、いきなりスカートをたくし上げた。「えっ」「へその奥のスイッチ」女は私の手を取り、自分のへそに私の指を突っ込んだ。カチッと音がした。「あ…
おばあちゃんが神社で買ってきてくれた「合格祈願」のお守りをその神社に持っていき、社務所で返品してもらって小銭を稼ぐ。
学校の昼休み、何となく駐車場に行くと、いつも「友だちを大切にな」が口癖の先生が、一人、車の中でコンビニ弁当を食っているのを見た。
賽銭箱の中に宝くじが一枚入れられていたので、調べてみると、6等もかすっていなかった。
娘が夏休みの宿題で描いた、交通安全ポスターの中の、車にはねられている女性が、どう見ても私の新しい妻。
放課後、吹奏楽部の練習が始まると、学校の裏庭に現れて、それをじっと聴いている、ホームレスのおじさん。
家族全員で折り、病室に持っていった千羽鶴を見て、誰がどの鶴を折ったかを当てるおばあちゃん。お医者さんの言っていた余命が近づくにつれ、その正解率が上がっている。
父が首を吊った庭の木を引っこ抜いて処分してもらったが、後日そこを見ると、土から小さな芽が出ている。
床に転がるダッチワイフにとまった蚊を、「ばかだなぁ」と思いながら、全裸でぼんやり見ている、夏の、休日の、夕暮れ。
「先生ね、これくらい、あなたが好き」と言いながら先生は、ぼくと二人きりの教室で、クラスで飼っている金魚の水槽に、洗剤を注ぎ込んだ。
××君のスニーカーに口紅が付いているのを見て、「ああ、またお母さんを蹴ってきたのか」と思う。
「ゴキブリ用の罠の中を覗いてゴキブリがかかっているかチェックする」という仕事を娘婿に取られてから、夫はぐっと老け込んだ。
ちょっとペットショップ寄っていい?うちで飼ってる猫がもう死にそうだから。
ばあちゃん、二百円。さっき俺、じいちゃんに、二回、殴られたから。二百円。早く。
霊柩車の下に潜り込んでしまった子猫を必死におびき寄せる喪服の一団。
小学生だった三十年前のあの日、授業中に回ってきた「××先生のおっぱいにはほくろが二つある」と書かれた紙片を、なぜか今も大切に取っておいている。
ある日交番に小さな女の子がやってきて、我々の前にいくつかのお年玉袋をばさばさっと広げ、「これでパパを逮捕してください」と言った。