2020-01-01から1年間の記事一覧
動かなくなった犬のわき腹に給油口を見つける。
おかしいなぁ、死んだらふつう無口になるんですけどねぇ。
素っ裸になって露天風呂に行くと、「ちゃんと全部脱いでください」と、先に風呂に浸かっていた肉の塊のようなものに注意される。
背後からじゅっ、と音がしたので振り向くと、夕日が沈んだ後の水面に、煤けた木の玉が浮かんでいる。
返却日を過ぎているのに、母がかえってこない。
次の文を××語に訳せ、「この子の名は我々の古い言葉で「毒」を意味します、この子が十四歳になるまでに、この子の血肉は呪いのために使われることになるでしょう。」(3点)
社長から手渡された日本刀をタクシーの後部座席に突き立てたまま、駅前のロータリーを百八周したら今日の仕事は終わりです。
あ、大丈夫大丈夫、これはバイトの蜂だから刺さないよ。
両親の遺したアルバムをめくっていくと、母が父の飼育員だった時の写真が、一枚だけ出てきた。
あの機械が開発されてから、遺言を聞く屠殺場が増えたそうだ。
理科の先生が人体模型とともにラブホテルへ入っていった。
のれんに「実験室」と書かれた屋台から、父の背広を着た犬が現れた。
白い羽にちょっとずつ遺書が書き込まれている蝶の群が、向かいのビルの屋上から次々飛んでくる。
妻が、二階にある自分の部屋を歩き回るたび、一階の部屋の天井に血管が浮かび上がるのを見て、あいつだいぶ肥ってきたのだなぁと思う。
図書館の裏の畑で新刊の収穫作業が行われていて、あれだけツヤツヤしているのならハッピーエンドなのだろうと思う。
花火大会の夜、いい雰囲気になってきたので、思いきってあの子の手を握ると、あの子はにっこり笑って、そして色々あって、後日請求書が届いた。
じゃあ、じゃんけんで負けた奴が、人間の神様な。
「デザートくらい入るでしょう?」と笑って、彼女はミサイルの発射ボタンを押した。
明日の天使予報では、明け方、我が家の上空に一人、眠る祖母の顔を、そっと見る私。
相変わらず飼い犬の犬小屋は咬みちぎられた小指でいっぱいだし、町行く人はみな小指がないのだけれど、なぜ抗議も通報も一切されないのか、そしてなぜ私の小指は無事なのか、ちっともわからなくて怖い。
おい、なぁ、おい、お前の影、たわしで落ちるぞ。
夜、近所の寺からせっぱ詰まった読経の声が聞こえてきたので、そっと中を覗くと、本堂の梁から卒塔婆で出来た巨大なみの虫がぶら下がっていて、住職の顔とは対照的に、楽しそうにぶらんぶらん揺れていた。
図版6:あなたが死んだ時の親しい人々の表情。
全国の動物園のキリンの檻に、「みくだすな」とスプレーで落書きを続けていた男が、今日、器物損壊の容疑で逮捕されました。
神社の鳥居の前で、見えない何か相手にナンパの文句を繰り返している派手な若者たちをよく見てみると、全員黒目がなかった。
亡くなった娘になる手術を受ける下準備のため、点滴袋に娘の日記帳を沈める。
今日はあの子が27分間息子になってくれたのだが、「キリのいいところで30分にしようか」とは絶対に言わないところが、実にあの子らしい。
その娘がピアノを弾くと必ず夕立が降るので、あの家の前ではたまに、まだ帰りたくない中学生のカップルがうつむいてインターフォンを押している。
ぬり絵で遊んでいた娘が、「うっけつ、うっけつ」とつぶやいて、紫色のクレヨンを手に取った。
「エラーが発生しました」という書き置きを残して、ある日妻は忽然と姿を消した。