超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧

男の手紙が手錠になり、男の声が格子になり、台所の隅で男に抱かれながら、女は雨の朝の卵を茹でている。 * (私の細い肩が、ほどけた髪が、ぼやけた影となり、町外れの川のせせらぎにほつれている。) * 女の窓は男の眼差しだけで、女の世界は男の背中だ…

for no one

家の裏の小川で、叔母さんが苺を洗っている。 叔母さんの四本の腕が、叔母さんのお気に入りのグリーンのセーターとともに、小刻みに動いている。 叔母さんは三本の腕を使って苺を洗い、残りの一本でほつれた髪をかきあげる。 叔母さんの綺麗な顔は、僕の掌に…

Here Comes The Sun ver.2

「作業場」の上に広がる夜空に、金具を動かす乾いた音が響いている。 鉄くさい僕の指には、流れ星を動かす金具が握られている。 誰かが金具で動かしている夜霧が、ひんやりと肌に心地良い。 僕は夜空を見上げ、金具から手を離す。金具は元の位置に戻り始め、…

two of us

リエは凛としてリボンを結ぶ。 リエは凛として荷物を運ぶ。 リエは凛として妹を抱き上げる。 リエは凛として地図を広げる。 リエは寝床で鼻をかみながら、スケッチブックにまだ見ぬあの港町の絵を描く。 * リナは理由なく笑い出す。 リナは理由なく涙をこぼ…