超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ゴンドラと私

観覧車からゴンドラをもぎ取る母。果物籠いっぱいのゴンドラ。ゴンドラを軽く洗ってガラスの皿に盛り付ける母。中でまだ何かが暴れているゴンドラ。 私の部屋のドアをノックする母。食べなさい栄養あるんだからと机に皿を置く母。いらないとは言えない私。ス…

おかたづけ

首の長いきりんのぬいぐるみを、娘は持っていました。 きりんの長い首には、何か芯のような物が入っていて、私たちが何もしなければ、首は自然にぴんと立つようになっていました。 ある日家に帰ると、娘が私の書斎の前のドアに立っていました。それは娘が妻…

掌編集・十一

(一) 朝から雨が降っていた。 雨粒に混じって、人間の歯も降ってきた。 靴底の溝にはまって取れない。 (二) 真夜中。 解体途中の映画館。 重機の屋根にカウボーイが背を曲げて座っている。 (三) 町じゅうの人間が夢を見た。 月に吠える夢。 翌朝、道行…

皮と肉

いつものように動物園の門を閉めた瞬間、スピーカーが私の名前を呼んだ。象の檻に来いという。行ってみると、象の檻の真ん中で、象がぶっ倒れていた。胸に耳を当ててみる。いつものぶつぶつ声が聞こえない。私は軍手をはめて、象の腹のボタンを外し、象のか…

遊園地と酒(改訂)

電話で自宅に遊園地を呼んだ。こういうものを利用するのは初めてだった。そわそわしながら待っていると呼び鈴が鳴った。 注文したとおりの遊園地だった。若くはないが魅力的な目をしていた。厚手のセーターの下で、ゴツゴツとした鉄の塊が静かに息をしている…

ボディ

昨日風呂場のタイルにくっついていた妻の右目が、今朝は寝室の天井に移動していた。携帯の充電器の傍にあった小ぶりな耳に、おはようと声をかけると、昨日は玄関の靴箱の隅で苦しそうにしていた妻の唇が、今朝は寝室の窓ガラスにいて、おはようと明るく応え…

虹と獣

明け方にようやく雨は上がり、街の空に虹がかかった。あまりに見事な虹だったので、ベランダに出てぼーっとそれを眺めていると、辺りが急に獣臭くなった。尋常ではない臭いだったので、部屋の中に戻り、慌ててガラス戸を閉めた。顔を上げると、獣臭さの原因…