(一)
朝から雨が降っていた。
雨粒に混じって、人間の歯も降ってきた。
靴底の溝にはまって取れない。
(二)
真夜中。
解体途中の映画館。
重機の屋根にカウボーイが背を曲げて座っている。
(三)
町じゅうの人間が夢を見た。
月に吠える夢。
翌朝、道行く人みんな、唇が切れている。
(四)
娘が一人でおままごとをしている。
時折葉っぱのお皿がひとりでに引っくり返る。
その度に娘が何かに頭を下げる。
(五)
何握りますか。
私は「イカ」と答える。
板前が壷からイカ味のカプセルを取り出してシャリに乗せる。
(六)
雨雲が割れて、空に柔らかそうな女の腹が現れた。
へそから雷が漏れている。
あれに打たれて死にたいと思った。
(七)
さっきまで毒林檎が盛られていたガラスの皿を洗う。
たぶん彼女は最初から全部知っていたのだと思う。
おとぎ話に出てくるような立派な毒林檎じゃなかったし。