超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

掌編集・十一

(一)

 

 朝から雨が降っていた。

 雨粒に混じって、人間の歯も降ってきた。

 靴底の溝にはまって取れない。

 

 

(二)

 

 真夜中。

 解体途中の映画館。

 重機の屋根にカウボーイが背を曲げて座っている。

 

 

(三)

 

 町じゅうの人間が夢を見た。

 月に吠える夢。

 翌朝、道行く人みんな、唇が切れている。

 

 

(四)

 

 娘が一人でおままごとをしている。

 時折葉っぱのお皿がひとりでに引っくり返る。

 その度に娘が何かに頭を下げる。

 

 

(五)

 

 何握りますか。

 私は「イカ」と答える。

 板前が壷からイカ味のカプセルを取り出してシャリに乗せる。

 

 

(六)

 

 雨雲が割れて、空に柔らかそうな女の腹が現れた。

 へそから雷が漏れている。

 あれに打たれて死にたいと思った。

 

 

(七)

 さっきまで毒林檎が盛られていたガラスの皿を洗う。

 たぶん彼女は最初から全部知っていたのだと思う。

 おとぎ話に出てくるような立派な毒林檎じゃなかったし。