超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 近所に竹やぶがあり、そこに粗大ごみを不法投棄していく輩が後を絶たないのだが、その竹やぶには、時々、古いラジカセの幽霊が出ることがある。
 悪さをしたり、脅かしたりはしない。ただごみの山の上にぽわんと浮かび、中島みゆきの「狼になりたい」を延々と流すだけの幽霊だ。
 ごみたちにきかせているのか、俺たちにきかせようとしているのか、単に元の持ち主が好きだったのか、選曲の理由は知らない。が、家で一人で酒を呑んでいる時とかにやられると正直泣きそうになるので、やめてほしいとは思っている。

光の尾

 夜空の真ん中を、青い光の尾を引いて、地球から月へと真っ直ぐ、1ロールのトイレットペーパーが飛んでいく。
 彗星とか、流れ星とか、見たことないけど、きっとあんな感じなんだろうな。

 あの日空から聞こえてきた
「紙取って」
 の一言から、こんな美しい光景が見られるなんて。

 何だか涙が出てきた。
 何の涙だこれ。

 幼い頃、絵本の猿にえぐり取られた右の目玉が、二十年経った今、隣町の図書館で見つかったと連絡が来た。あの絵本は捨てたものだと思っていたので、とてもびっくりした。
 早速図書館に行き、目玉を返してもらうついでに、
「あの猿はどうしました」
 と司書に尋ねると、司書は
「誰も読まなくなったので死にました」
 と答えた。
 二十年ぶりに戻ってきた目玉には、なるほど、猿の卑屈な笑顔がうっすらと焼き付いていた。

サイン

 昼寝をしていた娘の寝息が、葉擦れの音へと変わっていった。
 後で訊いたら、森の夢を見ていたというので、森に遊びに連れていったら、とても喜んでいた。

 昼寝をしていた娘の寝息が、波の音へと変わっていった。
 後で訊いたら、海の夢を見ていたというので、海に遊びに連れていったら、とても喜んでいた。

 昼寝をしていた娘の寝息が、俺の悲鳴へと変わっていき、やがてそれが止むと、今度は土を掘る音へと変わっていった。

 まだ訊けていない。

何食った

 お前、何食った。

 そう問われて二日酔いの頭をフル回転させる。
 ゆうべは会社の宴会があったが、珍しく呑み過ぎてしまい、途中から記憶がない。
 何軒かはしごしたような気もするのだが、詳しくは思い出せない。

 お前、何食った。

 我が家の洋式便器から上半身をはみ出させた宇宙服姿の男が、イライラした様子でそう繰り返した。