超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 友人の家に泊まりに行った時に指摘されて初めて知ったのだが、俺の眉毛は、俺が寝ている間、どこかに出かけているらしい。
 朝目覚めると、時々、描いた覚えも剃った覚えもないのに、眉毛が太くなったり細くなったりしていたことがあったのだが、それは眉毛がどこかで派手に遊んだか呑み過ぎたかのどちらかなのだと合点がいった。
 しかし俺だって眉毛だってもういい年だ。いつまでも遊んでいられない。
 もし今後俺に会った時、目の上に眉毛が三本も四本も余計に生えているのを見たら、眉毛に何かおめでたいことがあったのだと思ってそっと祝ってほしい。

プルプル

 楽しみにしていたおやつのプリンを冷蔵庫から取り出し、スプーンですくおうとしたのだが、硬くてスプーンが通らない。
 ああ、忘れてた。電池だ。
 台所の戸棚から単四電池を持ってきて、プリンにセットすると、プリンはぷるぷると美味しそうに揺れ出した。

 夢中で食べていると、いつの間にか後ろにお母さんが立って僕をじっと見つめていた。
 僕と目が合うとお母さんは「もうすぐご飯だからね」と言いながら作り笑顔を見せた。
 僕は、僕がプリンを食べている時のお母さんの作り笑顔が嫌いだ。
「食べる?」
 僕がスプーンに一口プリンをすくってお母さんに差し出すと、お母さんは作り笑顔のままそれを断り、そそくさと台所へ去っていった。僕はわざと大きな音を立ててプリンを平らげ、カラメルにまみれた電池をゴミ箱へ放り投げた。さみしかった。

行方

 校庭の隅にある木の近くで遊んでいた子が、また一人行方不明になった。
 先生やお父さんやお母さんは監視カメラがどうとか、パトロールがどうとか大騒ぎしてる。
 そろそろ誰か、あれは木じゃなくて「喉」なんですよ、って教えてあげた方がいいんじゃないかな。