超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

毛糸玉

 夜空に浮かぶ毛糸玉、月のかわりの毛糸玉、ある夜地球と喧嘩して、ぷいと家出してしまった月のかわりに、夜空に浮かべられることになった毛糸玉、ちょっと黄色い毛糸玉、はじめのうちは居心地悪そうだったけど、最近ではすっかり月の顔になってきた毛糸玉、ちょこんとしっぽのように飛び出た糸の端、それに引っかからないように慎重に夜空を飛ぶ飛行機たち、そして毎晩誇らしげな顔で眠る世界中の羊たち、月のかわりの毛糸玉、いつか本物の月が地球のもとへ帰ってきたら、月と地球を結ぶマフラーになることが決まっている毛糸玉、その日まで夜空には毛糸玉、野良猫たちを毎晩うずうずさせる、毛糸玉。